短編

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 ルートヴィヒ王子は、久々に暇を持て余していた。働きすぎと周囲が気を利かせて、しかし中途半端に二時間の休憩を貰った。

(暇だ……)

 話し相手になってくれる伯父は、別の用事があるとかで城にいない。妹は兵の訓練のために時間が合わない。

(昼寝は先程こっそりしてしまった。おやつにはまだ早い。だがこんな事を考えているうちに休憩は終わる)



「というわけだ、付き合ってくれ」

「いつにも増して、暇そうなお顔ですのね。いいですわ」

 なんだかんだ、妹は自分に合わせてくれる。
 ルートヴィヒは投げられた剣を取り、片手で構える。一応は女性に配慮したが、エバはそれを不服とした。

「ちょっとむかつきますわ」

「……確かに、最近は弓ばかりで、腕が訛ったやも知れぬ」

 双子が剣を構え相対する様を、周囲の兵らはやんややんやと騒いで観戦する。王子はその多忙さゆえに訓練所に現れることは稀で、剣を拝める機会は皆無だ。

「殿下は器用な方だからな、剣も素晴らしいと思うぞ」

「いいや俺は姫様に賭ける。王から直接手ほどきを受けているし、実際かなりのものだ」

(私も父上から教わったのだが)

 おっかしいなーやっぱ皆妹が好きなのかなーとぼうとしていると、先に踏み出したエバの剣が王子の首元に肉薄する。

「ぼけっとしないでくださいまし」

「髪は切ってくれるな」

「えっ今のは、姫の剣を冷静に待っていたんじゃないのか?」

「馬鹿、あれは王子を挑発してんだよ」

 兵は好き放題に言うが、ルートヴィヒはもう意に介さない。真正面から妹の剣を受け止める。
 予想外にエバの腕力は強く、確かに片腕では押し負けていた可能性もあった。

(しかし父上ほどでもない)

 努力し続ける妹に敬意を表し、捌くことも退がることもしなかった。一歩踏み出し、力づくで相手の剣を弾き飛ばした。

 決してエバの握力が弱いわけではない。王女は柄を握りすぎて血が垂れる拳を、剣をさげたルートヴィヒの顔面に叩き込んだ。

「ぐっ……!」

 額に入り思わずのけぞるものの、それも一瞬。ルートヴィヒは剣を捨て、お返しとばかりにエバの頬を殴った。女の子だからと手加減する心配りは、その拳には無かった。

「っらあ!」

「ふっ!」

「まだまだッ!」

「この……!」

 試合というよりも、ただの殴り合いに発展した二人を、周囲の兵らが慌てて羽交い締めにして止める。

「両殿下!お鎮まりください!」

「やかましいぞ、離せ!というかよくも顔を殴ったわねお兄様!明日は夜宴に呼ばれているのよ!」

「先に殴ったのはお前だ」

 エバは切った唇から出た血をぶっと乱暴に吐き出し、文句を飛ばす。対してルートヴィヒは侍従から差し出された手拭きで、鼻血をあくまで優雅に拭き取る。

「しかしお前も強くなった。返しの刃が出せなかった」

「お兄様こそ、気迫は以前より増して。いつ剣の鍛錬を積んでますの?」

「さあな……ああ時間か。暇潰しに付き合ってもらい感謝する。では」

 思っていたよりもずっと、妹は逞しく、また兵からの人気もある。それが自分のことのように嬉しく、ルートヴィヒは足取り軽く執務に戻った。
 
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