短編

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 迷子札がわりに、牛には首輪にカウベルをつけている。
 いつもはオモチャとして自分で鳴らして遊ぶ子牛だが、味を覚えてしまったか、カウベルを舐めている。

「こらこら、やめなさい」

 草食の牛は、本能的に金物が好物だ。
 今は投薬で栄養補助をするから問題ないが、太古の牧場では、車輪の錆を舐めさせていたという。

 この牛だって、ペレットとサプリメントで完璧な栄養調整を行っていたし、たまに草を噛ませてもいる。
 それでもやはり、本能とは凄まじい。

「あー、やだー」

 美味しいと感じるらしく、叱ってもやめようとしない。首輪を取ってしまおうかと手をうなじにまわすと、いつになく拒否された。

「や〜、パパ、やめてえ」

 これはいわゆる、幼児反抗期か?
 しまいには泣き出してしまい、私は牛のお気に入りのタオルで顔を拭いてやる。

「ああ、泣かないで。もう取らない、な?」

「……うん」

「でも、これは食べ物じゃないから、舐めてはいけない。わかった?」

「……うー」

 ものすごく不満げな牛が可哀想で、私は鉄の味がする飴を作ることに決めた。
 
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