短編
□2
7ページ/43ページ
迷子札がわりに、牛には首輪にカウベルをつけている。
いつもはオモチャとして自分で鳴らして遊ぶ子牛だが、味を覚えてしまったか、カウベルを舐めている。
「こらこら、やめなさい」
草食の牛は、本能的に金物が好物だ。
今は投薬で栄養補助をするから問題ないが、太古の牧場では、車輪の錆を舐めさせていたという。
この牛だって、ペレットとサプリメントで完璧な栄養調整を行っていたし、たまに草を噛ませてもいる。
それでもやはり、本能とは凄まじい。
「あー、やだー」
美味しいと感じるらしく、叱ってもやめようとしない。首輪を取ってしまおうかと手をうなじにまわすと、いつになく拒否された。
「や〜、パパ、やめてえ」
これはいわゆる、幼児反抗期か?
しまいには泣き出してしまい、私は牛のお気に入りのタオルで顔を拭いてやる。
「ああ、泣かないで。もう取らない、な?」
「……うん」
「でも、これは食べ物じゃないから、舐めてはいけない。わかった?」
「……うー」
ものすごく不満げな牛が可哀想で、私は鉄の味がする飴を作ることに決めた。