短編
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我が主さまは、ざっくり言うと魔王でございます。私はただの影で執事、かの方の魔力の切れ端です。
黒の君、どぐされ淫売、魔導の祖、月の魔、赫映姫――様々な名で呼ばれた我が主さまは、人間どもに魔力を根こそぎ奪われ、封印され、今やその辺で死にかけていた傭兵と取り引きし、憑依する身。
「あのよお、テメエは何故毎夜その辺の男引っ掛けてくるんだ?ていうか道ばたでやり捨てんのやめろ」
「これが予の性分ゆえ、仕方あるまい。おんしに手を出さぬ分、これでも節度を守っておる」
「いやそういう意味じゃねえ」
「む、予の躰が欲しいのかえ?いつでもくれてやるぞよ」
「いらんいらん」
我が主さまの艶かしいおみ脚を無視し、つっけんどんにしたのは、この傭兵がはじめてでございます。我が主さまは負けず嫌いでございますので、あの手この手で傭兵を陥落させようとしております。
お二方は、主の封じられた魔力を戻す旅の途中です。王国軍からは追われ、根無し草ではありますが、傭兵は慣れているようで。
「そんなに予が他の男どもと寝ているのが気になるのならば、おんしに女を寄越そうか、それとも予の使い魔もなかなか良いぞ」
「いらねえっつってんだろ。俺の中からさっさと出ていけ。ええいのしかかるな」
「つれないのう……まま、のんびりいこうではないか。どうせ時間は長い」
「お食事の準備が整いましてございます」
「この使い魔の家事だけは完璧だからなあ、こいつだけ置いていけよ」
この傭兵……私はただの魔法であり、私の意思は主の意思なのですが、それを暴露すれば、主の折檻を受けてしまいそうです。
「ほうか、ならこれをやろう」
「なんだ?この鍵」
「予の貞操帯の鍵ぢゃ」
傭兵は飲んでいた酒を噴き出してしまいました。不潔な。
「いらんわボケッ!」
「なんと、快楽を求めてむらむらしまくる予を好きにできるのぢゃぞ。これほどクるものもあるまいに」
「テメエだけだ発情猿!一人で盛ってろ!」
我が主は、卓に脚を乗せ着物の裾をめくり誘惑しますが、どうも傭兵にはきかぬようで。
今宵も私が、主の慰みになるのでしょうな。つまるところ、本当に一人で盛っている状態でございます。