短編

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 ああーもぉー雨が降ってきたから、車を出すよう言ったのに、ぜーんぜん来ないしい。
 急ぎの仕事があるから、もう歩いちゃえっ。

「あ、兄貴、濡れちまいます」

「るっせぇぞダボが。今月の収支表が来てるんだ。さっさと事務所帰るぞ」

 弟分が傘をさしてくれる。あーあ、黒い傘って可愛くない、気分が沈んじゃうなあ。
 ていうか、スーツも真っ黒だし。せめてコートは明るい色にしたいよお。

 急ぎ足で歩いていると、ビルの隙間、コンビニの横に汚いダンボールを見つけた。
 よーく見ると、中には猫ちゃんが親子で捨てられていた!ええーどうしよう、かわいそう!でもうちの事務所、ペット禁止だし……。

「おいヤス、傘よこせ……ったく、骨が折れてんじゃねえか」

「すんません、兄貴……事務所にこれしかなくて」

 馬鹿言わないでっ、傘立てに水玉模様の可愛い傘あったじゃんっ。もおーヤスはそういうとこ無頓着なんだもん。

「みっともねえ、小遣いやるから買ってこい」

 ヤスがコンビニでビニール傘を買う間に、猫ちゃんが濡れないように、そっと傘を立てかけておいた。ごめんねー飼えなくて。

「兄貴、煙草どうぞ」

「おう」

 あーあ、組長に言われて吸ってるけど、本当はペロちゃんキャンディの方が好きなんだよねー。

「あ、猫さんだ」

 俺はびくりとした。高校生かな、男の子が中の猫を覗き込んでいる。

「そういえばミケ子がしんじゃったし……叔父さんなら飼ってくれるかも」

 そう言って高校生の子は、ダンボールを抱えて歩いて行った。ああー車あったら送ってあげるのにい。

「あっ、兄貴、迎えが来ましたぜ」

「へえ、すいやせん。お待たせしました」

 もう少し早かったら、あの子送ってあげられたのに!

「てめえ遅えんだよ!クズが!」

「ヒィッ、す、すんません!」
 
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