短編

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 ワシの名は新田米造!何を隠そう八人兄弟の末っ子だから米造じゃ!

 飯を食い終わった後に、としおが話したい事があるとかで、部屋に呼ばれた。世話人のじいやさんもいない。

「ヨネゾー殿……貴方を見ていると、私は不安なのです。どこか、進んで死に向かっているような気さえして」

「ああん?そんな事はないぞい」

 ワシは昔からヤンチャだったから、大人しいとしおには、そう見えるのかもしれん。

「兵たちは、私を守るために戦っています。私もそれに応えるつもりです。
ですがヨネゾー殿には、どう報いればいいのでしょう?土地や高位の姫を授けても、とても足りません」

「……あー、いや何か勘違いをしとるようじゃが、ワシはとしおを友だと思っちょる。お前さんを助ける理由はそれだけじゃ。
あと土地もおなごもいらんいらん、ワシは死んだ妻に操を立てておる」

「……伴侶がおられたのですか」

「昔の話じゃ。戦争で兵士になって海を渡ったら、戦が終わっとると知らずに五年ぐらい帰れなくての。
ようやっと帰ったら、ワシは死んどることになってて、あいつは親切な大問屋に身請けされておった」

 昔は死にたいぐらい辛かったが、今となっては笑い話じゃ。大問屋の旦那は良い奴で、詫びだと言ってワシに仕事の口利きまでしてくれた。

「ちょ、ちょっと待ってください。なんですかそんな、理不尽なことがあってよいのですか!」

「ワシだけじゃなかったし、家族全員死んどる奴もいた。中には生き残った恥さらしと追い出された奴もいた。ワシは運が良いんじゃ」

「ですが、そんな……ヨネゾー殿の奥方は、納得がいかないでしょう」

「ワシが外国でへーこらやっとったから、あいつと義母さんは路頭に迷うたんじゃ。何も無い未亡人を拾ってくれた大問屋には、感謝はしても恨むだなど、とんでもないわい」

 言い聞かせてようやく、としおは納得したようだ。こんな話、他人に話すなんて初めてじゃのう。ワシもヤキが回ったか。

「……そうですか、余計な事を、言いました」

「いや、ワシも言い過ぎた。としおが心配してくれるんは、ありがたいのう」

「……当然です。ヨネゾー殿は我々に……いえ私にとって、大事な人ですから」

 年老いてから、若いもんに慕われるのがこんなにも嬉しいものだとは思わなかった。
 ワシは子どもはおらんかったが、いたらこんな気持ちだったのかのう。

「ヨネゾー殿おおおお!王子をたぶらかすでないわあああ!」

「なあああ!?」

 扉で聞き耳を立てていたらしい、じいやさんに怒鳴られた。
 と思ったらとしおの兵どもまでぞろぞろ出てきた。なんなんじゃ、こいつら。
 
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