短編
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俺の唯一の家族である弟が、よりによって唾棄すべき領主の性奴になっていた。
領主は俺を裏切ったのだ、俺が奴にもてあそばれていたは、決して好きでやっていた事ではない。
弟の膨れた腹を見た俺は、思わず領主に飛びかかったが、あえなく捕らえられ、地下牢に拘束された。
殺されるかと思ったが、兵どもからひたすら殴る蹴るの暴力を受けるだけだ。
水と食料は与えられたが、治療はされず、傷は膿むばかり。
あれからいかほど過ぎたのか、十日をこえた辺りから、数える気力も失せた。
今はただ、弟に会いたい。俺はあいつが居たから耐えてこれた。俺が辛い時は、いつも弟が支えてくれたんだ。
牢の扉が開き、髪を掴まれ起こされる。忌むべき領主が、目前にいた。俺は掠れた喉を必死に動かし、罵倒を浴びせる。
「こ……の、くそ……野、郎……呪われ、ろ」
「やれやれ、反省していないようだな。
お前の弟が、話したい事があるそうだぞ」
弟が、そう弟が俺の前に現れた。はずだった。だが以前より痩せ細り、体中に殴打痕がある。髪も無理矢理抜かれたか、囚人のようにみすぼらしい。
「ど、うし……た、そ、の……姿、は」
「兄さんのせいだ」
吐き捨てるように、弟は言った。聞いた事もないような、低い声で。
「……兄さんが領主様を裏切ったから、僕も領主様に嫌われた。兄さんが許しを請うたら、全部元に戻るのに、どうしてそんなことをするの?」
「な……あ……」
「もう兄さんがわからない!なんで優しい領主様を裏切ったんだ!
兄さんが領主様に謝るまで待とうと、ずっと代わりに報いを受け続けたけど、もう兄さんは手遅れだ」
俺は声が出なかった。俺の代わりに、だと?馬鹿な、俺とてこんなにも傷だらけだというのに。
いや違う、弟の腹はすっかりへこんでいた。心身共に、領主に惨殺されたのだ。
「違う……おま、え……だま、され」
「そんなに僕が幸せになるのが嫌なのか?
兄さんがそんな人だとは思わなかった」
「ちが……きい、て、くれ……」
畜生、声が出ない。舌が、まわらない。
「でも、僕が兄さんをころせば、領主様はお許しになるって言ったんだ。もう全部兄さんのせいなんだから、お願いだから、ほんと、ちゃんとしてくれないとやだよ」
「……あ……か」
俺が最後に弟の名前を呼ぶ前に、弟の持つ短剣が俺の喉を刺した。
「よしよし、よくやった。偉いぞ」
「領主様、これで約束通り、また僕を愛してくださるのですよね。また子を生してくださるのですよね」
「うむ、約束しよう。私は寛大で優しいからな」
馬鹿野郎、そんな身体で子どもをつくれるわけがない。領主はまた嘘を吐く。
俺は弟に手を伸ばすが、意識が薄れる方が早かった。
ああ、あんなに幸せそうな弟を見たのはいつぶりだ。
俺は全てを呪いながら、何もかもを手放した。