短編
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僕の剣のお師匠は、大戦時は“死の剣”“死剣士”と恐れられた大剣豪なんですよ。
今は首都を離れた小さな町で、のんびり一緒に暮らしています。剣の技術とは裏腹に、師匠は温厚で優しいんです。
町の人たちは皆いい人ばかりで、退役軍人の僕らを受け入れ、仕事をくれます。
酒屋の姉さんや、代筆屋のお嬢さんとの結婚話も頂いたのですが、師匠と結婚したいと言ったら、引き攣った笑顔で頑張って、と応援をしてもらいました。
やはり師弟で結婚は駄目ですかねー。
今日は林の伐採に行った師匠に、お弁当を届けようかと。現場の方たちへの差し入れも作っていたら、遅くなってしまった。
「こんにちは!皆さん、差し入れです」
「ああ、ありがとう。けどもう、剣士さんが全部終わらせちまったよ」
「そうですか。でもせっかくなので」
師匠が狩った猪肉、早く食べないと。パンで挟んで大量に作ってきたし、いくら師匠が大食らいとはいえ、食べ物は皆で分け合うべきかと。
林には巨大な蜘蛛の糸が張り巡らされている。これ、後で片付けなくちゃ……。
倒され、並ぶ大木は、どれも滑らかな切断面で、師匠の腕前を見せてくれる。
巨大な亜人を殺すための技術を、伐採のために使うとはって、軍の人たちは言うだろうなあ。けど師匠は昔から、料理にも剣を使うような人ですし。
遠くから、錆びた刃をすり合わせたような、不快な音が聞こえてきます。
「お師匠ー!お師匠さま、ご飯持ってきましたー!」
枝を折りながら、僕の前に巨大な布が落ちてきました。
山羊の脚を仕舞い、蜘蛛の八本の脚でさかさかとお弁当を探っているので、僕はハンカチを出して注意しました。
「だめですよお師匠、ちゃんと手を拭いてくださ……手はどれにします?」
布からは、光る二つの眼球。顔はちょっと見たことないです。
師匠は布を分けて、人間の両腕を出しました。久しく見ていない、師匠の本来の手。
「お師匠さま、帰りにタライを買いましょうよ。お師匠のお風呂にしたいんです」
師匠はしゅうしゅうと鳴いています。多分、いいよって言っているかと。
僕のお師匠は大戦時に、全身を怪物の臓器や手足で継ぎ接ぎに改造しました。元人間のキメラなんですよ。