短編

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 ワシの名は新田米造(にったよねぞう)。よぼよぼの九十八歳じゃ!
 老いぼれらしく、庭先でぶっ倒れて往生したはずじゃったが、あの世らしきところでようわからんヒトに会ってのう。

「おお、観音さまじゃ。ありがたや」

「あ、ちがうんです。すいません」

 そうなのか、金の衣を着てぴかぴか輝いておる。仏さまの類には違いあるまい。

「あのですね、すーごく申し訳ないんですが、手違いであなたの転生先が変なところになってしまいまして」

「おお、坊さんの言うとおり、輪廻はあるんじゃなあ」

「そうなんですが、お国がだいぶ違いまして……」

「それは仕方のないことじゃ。徳を積まんと、人間になれんと坊さんが言うとりました」

「はあ……まあ……大変申し訳ないんで、記憶は引き継いで、年齢もちょっと足しておきます。
本当にすみません!次は山に捨てられた子どもなんですうう!まじハードモードですみません!」



 ワシが目を覚ますと、森林じゃった。って服着とらーん!
 はっ、おまけに手足が若々しい、腰も痛くない……生まれ変わったのか……それとも夢でも見とるんか。

 ワシはとりあえず、手頃な枝を持って山を登る。迷った時は上を目指すのじゃ。

「おお、水じゃ。ありがたい」

 木の根から綺麗な水が滴っておる。両手に掬って飲むと、冷たくてうまい。

 しかし、どうするかのー。集落でもあればよいが、全裸で過ごすのはきついぞい。

 しばし歩いていると、どこからか怒鳴り合いが聞こえてきた。人の声に、ワシは喜んでその方へ走った。

 恰幅の良い男どもが、刀を持って馬車を襲っておる!年若い青年が引きずり出され、今にも殺されそうじゃった。ワシはカッとなって叫んだ。

「貴様らそれでも大和男子かー!」

 枝で男どもの手首を打ち据える。落とした武器を投げ捨て、戦争で南米にいた時に謎の中国人にタバコ代として教わったカンフーキックを食らわせる。中国人ってどこにでもいるのー。

「ぐああっ、なんだこのガキ!猿みてえにちょこまかと」

「誰が黄色い猿じゃ鬼畜どもめー!」

 脛を枝で突きまくると、賊どもは逃げた。

「おう、怪我はないか坊主」

「えっ、ああはい」

 まあ山からフルチンのじじいが出てきたら驚くわな。

「王子!ああよかった……そこな少年、よくやった」

「おう。この辺りに集落とかないかのう」

 召使いらしい男が、青年の腕を引く。青年は青ざめた顔で、ワシに提案してくれた。

「でしたら、私の馬車で共に行きましょう」「王子……!」「君のような人がいてくれると、心強い」

「乗せてくれるのか!これはありがたい」

 王子という青年は、背中のマントを取ってワシにくれた。

「寒いでしょう、こんなものしかないが……」

「ややっ、なんと上等な布じゃ〜」

 断るのもなんじゃし、袈裟がけにまとった。やっと人間らしくなったわい。

「さ、どうぞ……ええと」

「うむ、新田米造じゃ。米造でいいぞい」

「アルペー国王子トゥシオです。宜しく、ヨネゾー殿」

 有北(あるぺい)国のとしおじゃな。ワシらは握手をした。
 
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