短編
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雨の日は毛がちょっと湿って不快です。ぼくはとくに毛が長いから、変な癖っ毛がついちゃって……。
「冬の雨ってひとしお寒いです」
「長毛おにいちゃん、ひとしおってなあに?」
「お塩ー?しょっぱいのー?」
雨の日は外に出れないので、まだ小さい兄弟の遊び相手をします。この子たちは名前はまだなく、もうすぐメリーさんがつけるはずです。
がらがら、と音を立てて舎の扉を開けたのは牧羊犬さんでした。
ずぶ濡れの牧羊犬さんは、身体を振って水を払っています。ぐるぐる唸る牧羊犬さんを怖がって、皆は隅に逃げてしまいます。
兄弟でくっついていないと不安なのだけれど、でも濡れている牧羊犬さんを放って置くのも……。
「おい」
「あ、はい」
牧羊犬さんがぼくを抱えて、どっかと座りました。ぼくのお気にのタオルを貸してあげると、顔を拭いています。
「クッソ寒い……おっさんは家に入れてくんねーしよ」
「牧羊犬さん大きいですから」
「ったく、雨の日は誰が羊どもを追ったててると思ってんだ。また子羊増やしやがって」
「とか言ってー、子羊さんたちを抱っこして走ってたの知ってますよ――んひゃん」
尻尾を引っ張らないでって、いつも言ってるのにい。
「黙って俺のカイロになれや」
「ふえああ、毛にお手をつっこまないで、ああ、そんなとこ、触っちゃだめえ」
今まで舐めるだけだったのに、牧羊犬さんは噛むようにもなりました。でも痛いんじゃなくて、痛痒いっていうか、むずむずするっていうか。
「めえめえウルサイな。寒いんだよこっち向け」
「ま、待って、待って皆見てるの、いや恥ずかしい」
「いいんだよ、メリーさんはどうせ知ってるからな」
「ねえねえメリーさん、長毛さんお顔真っ赤にして泣いてるよう」
「うんうん、啼いてるね。
でもあれは喜んでるだけだから、皆はもう寝ようね」
「ねんねー?」
「ねんねよー。明日はヒツジさんイベントに駆り出されるからねー早めにおやすみー」