短編
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僕が最初の主人に飼われたとき、主人の傍には白い男の人がいた。よく笑い、僕にも優しくしてくれた。
その人がウサギ好きだから、僕を飼い始めたとか。
そのうち、白い人は家に帰ってこなくなった。主人もどこかへ行くようになった。
だんだんご飯も貰えなくなってきて、主人にねだっても駄目だった。おかげで缶詰めの開け方を覚えたよ。
ついに主人と僕だけになった。何も食べない主人に、レトルトパウチを渡すけど、ぶたれるからやめた。またどっか行った。
主人が久々に帰ってきた。あの白い男そっくりの、ウサギを連れて。
思わず悲鳴をあげた。ご丁寧に耳も真っ白。何の冗談かと思ったら、主人は本気だった。
本気で本当に、ウサギなんかを人間扱いする。でも主人は馬鹿だ、その人は違うんだよ違うウサギ。ただのウサギ。
それが理解できない主人は、白ウサギにひどく当たった。声帯が無いのは僕がいて解ってるはずなのに、会話が無いとか言うし。
白ウサギに表情が無いことにも、文句を喚く。僕はきちんと躾されたから、いろいろ反応を返せるけど、白ウサギはそうじゃないみたい。
積もり積もって、ついに捨てられた。限界だったから有り難いけど、両手足を縛られて、道脇の藪にポイとか、もう最悪。噛み殺してやればよかった。
『なぜ彼は俺たちを置いていく』
『わかんないどうでもいい。それより、どうしてそんな呑気なの』
『そのうち、迎えが来るんじゃないか』
『そんなわけないじゃん。兄弟、君は死んでもいいの?』
『今までが生きていたと言えるか』
確かに。でもね兄弟、僕は君と違って人の優しさを知ってるの。抱きしめられた時の暖かさを知ってるの。それを知らない君を、このまま死なせたくない。
雨が降った。寒くて寄り添い合っていると、誰かが通りがかる。僕は思い切り鳴いた。車道脇だから、もう二度とないだろう。
「え?何これウサギ?」
傘もささないでずぶ濡れのその人は、僕らを見つけてくれた。
「なんだこれ、捨てられたのか」
「きゅっきゅっ」
「うち来る?」
「きゅーっ」
僕が頷いたことを確認して、その人はナイフで手足を縛るテープを切ってくれた。
「車は乗り捨てちまったから、歩きだ。ついて来いよ」
鳴き疲れた僕を、兄弟がおんぶしてくれた。
あの人、よれよれのワイシャツになんか赤黒いものがついてるけど、これ大丈夫かな……。
という心配もよそに、僕らはこれ以上ない暮らしをしてます。
新しい主人は、僕らを可愛がってくれるし、ごはんも美味しい!
……名前のセンスは、ともかくね。