短編

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 俺が率いる盗賊団は、かねてより狙っていた藩候(はんこう)の屋敷を襲った。
 練に練った作戦、好機を待つこと一月。これが失敗するはずもない。

 藩候の寝室の扉を蹴破る。何事かと叫ぶ前に、脂肪に覆われた喉を突く。
 藩候の下には、青白い肌のおっそろしく綺麗な年若い男がいた。

「えっえっ、やだ、藩候さま!藩候さま!」

 藩候の他の妾と比べても、飛び抜けて美人だ。
 決めた、こいつは俺のものとしよう。

 よくよく観察すると、藩候は自身の一物に金剛石の首飾りを巻きつけている。気持ち悪い、悪趣味だ。

「おら来い!今から俺が手前(てめえ)の飼い主だ!」

「いやっ、いやだあ!離して、離してええ!」

 拠点に帰り、財宝を見せつけ合う。取り分は取った者それぞれだが、交換や売買は自由だ。
 俺は自分のねぐらへ行き、抱えていた餓鬼を寝台に投げた。

「やめろ!卑しい盗賊になど……」

「まあそう言うな、売るにはもったいねえ。可愛がってやろう」

 白い顎を取り、酒瓶を口に突っ込む。餓鬼はえづいて、酒を吐き下す。

「藩候の妾と、盗賊の頭の性奴。何も変わらねえだろ。ほら見ろ」

 仕切り布を取って、財宝を見せつける。白い喉が鳴った。
 金銀に見とれる餓鬼を押し倒し、俺は存分に藩候が決して手放さなかった宝を貪った。



 ごり、ごり、という音に俺は目を覚ます。
 隣で気を失っていたはずの餓鬼がいない。もし逃げようとも、手練の盗賊を倒せる腕っ節には到底見えない。

 そいつはすぐに見つかった。俺の財宝を手に持っている。
 盗む気か!俺は餓鬼の肩を掴み、首を腕で絞めた。

「おい、なにやって――!?」

 見間違いでなければ、餓鬼は財宝を――正確には宝石を食っていた。噛み砕かれた柘榴石が、そいつの口の端から落ちる。

「手前まさか……貔貅(ひきゅう)か!?」

「ち、ばれたか」

 金銀財宝を食い、腹に貯める財神……のはずだが、なんで人の姿をしていやがる?

「お前が私の取り憑き主を殺してしまった。なんてことをしてくれた」

「知るか、つか食うな」

 指輪の宝石部分だけを食い、銀はぷうと吐く。

「この通り偏食気味で……そんな顔をしないで、いい思いをしたろう。
藩候と同じ、私は夢を見せる、代わりに宝石をもらう」

 貔貅は主に、財福を呼び寄せるという。藩候が肥えていたのはそのおかげだ。
 その飼い主が変わった、これは星の巡り合わせだろう。

「どうだ貔貅よ、俺は運があるだろう」

「うんうん、素晴らしい目をしておられます」

 貔貅は俺を主に決め、俺はいくらでもその体を弄ぶ権利を得た。
 ただ、その代償は金額的な意味で高かったが――。


「お頭様、あの紫の金剛石が食べたい」

「ふざっけんな!船一隻買えるぞ阿呆か!」

「ええー……この世の全色の金剛石を食べるのが夢なんですう」

 それでも俺は、こいつを手放すつもりはない。
 
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