短編
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俺ら兄弟は、領主への土産という形で送られてきた。
故郷は海向こうで、もう戻れはしない。ここに骨を埋める他ない。
俺はまだいい。だが成人したばかりの弟が不憫で仕方なかった。
親を流行病で失い、弟だけはと大事に育ててきた。
領主にどんな辱めを受けても、引き換えに弟にだけは手を出さないでくれと頼んだ。
このいやらしい男は、下卑た笑い声を上げて約束した。
「いいぞいいぞ、お前が私を飽きさせなければな」
弟のためだ、俺は口にすることも忌々しい、反吐が出るようなことをたくさんさせられた。
打ちのめされ、元気のない俺を支えたのは、やはり弟だった。
「兄さん、いつもお仕事ご苦労様。たまに休みはもらえないのかな?兄さんと遊びたいよ」
弟は離れの番をしており、あまり会わない俺が何をしているかなど知らない。それでいい。それでよかった。
「もう明日から来んでよいぞ。結婚を決めたからな」
ある日、領主がそう言った。驚いた、こんな性悪野朗に嫁がくるとは。
「お前には紹介してやろう。ぜひ披露したいと言っておったからな」
領主の隣に現れたのは、弟だった。久々に会った兄弟の腹は、少し膨れていた。
「ば、かな!約束はどうした!!」
「私は手を出してはいない。弟の方から望んだのだ」
弟はにこにこと笑い、領主の腕に抱きついている。何を、何をしたんだこの領主は!?
「減らず口の多いお前とは違って、弟は初(うぶ)で可愛いものだ。お前はちと、穢れがすぎる」
穢したのはテメエだろうこの屑が!そう呪いの言葉を吐く前に、弟は言った。
「兄さん、領主様は本当に素敵な方なんだよう。ぼく、この方と一緒になれて、本当に嬉しい。ここにこれて、よかったねえ。
兄さんもそう思うでしょう?」