短編
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「ぼくは、じゃなかった私は、かいじょ犬として人を助けるために生まれたゴールデンレトリバーですっ」
「はい、よく言えました」
「えへへーなでてーなでなで」
せんせーはぼくの頭をぽんぽんするだけで、なでなではしてくれない。
あうあう言っていると、隣のシェパさんが睨んできた。
「うるさいですよばかゴールデン。かみますよ」
「ふええ」
「二匹とも、ご挨拶と正しいお散歩を覚えましたね。今日から本格的に、介助犬としての訓練を始めます」
「はーい」「はいっ」
「指導者として、きみたちの先輩をお呼びしました。ドーベルマンさんです」
お部屋に入ってきたのは、とにかくでっかい大人のオスだった。尖った耳が角みたいで、細い目はするどくぼくらを睨みつける。
「「うわわあわわわわ」」
ぼくもシェパさんも、怖くてお漏らししてしまった。
「だから言っただろう無理があると」
「そうは言っても“犬”の絶対数が少ないから仕方のないことです」
ドーベルマンおじさんが怖いのは最初だけで、ぼくらのお着替えを手伝ってくれた。
シェパさんはまだ警戒心バリバリだけど、しょーがないよシェパさんだもの。
「ドーベルマンさんは、身辺警護のための犬だけれど、今は主人の息子さんの介助もしています。
しっかりとドーベルマンさんの言うことを聞くように」
せんせーとおじさんに引率されて、ぼくらは病院まで行くことになった。
ぼくは病院は、人がたくさんいて好きだけど、シェパさんは嫌いなんだって。死臭がするんだって。
「若様、帰りました」
お部屋のベッドには、男の子が沢山の管に繋がれて寝ていた。生きてるのは匂いでわかるけど、それもうすい。
ドーベルマンおじさんは点滴をかえたり、男の子の髪を整えたりしてる。
「私の主人の一人息子。大事な若様だ」
「わかさまねんねー」
「しっ、しずかに。ばかゴールデン」
「いや、若様はほとんど目を覚まさない。だが意識はあるから、話しかけてやってくれ」
「えー、なでなでしてもらえないの?」
それはやだなーと思っていると、おじさんは困ったように笑って、ぼくの頭をぽんぽんした。
「主人や若様がいれば、それでいいんだ」
ご主人が床ずれしないように、寝返りを手伝っていたら、ふとドーベルマンおじさんを思い出した。
ご主人もいつか、あの若様みたいになっちゃうのかな。病院ってお泊りできたっけ。
「ご主人ー、これでいい?」
「ああ……ありがと……」
ご主人は眠そうに呟いて、私の耳の後ろを撫でてくれた。えへへー、嬉しい。
「ご主人、すきすきー。大好きです」
「ん……」
いつか撫で撫でできなくなっても、私はずっとご主人の側にいたい。っていうか、いる。
そうだ私がご主人を撫でてあげよう、私のご主人様になってくれてありがとーって。