短編

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 伯爵の背中から、心の臓を一突きにしたのは、アルヴァの軍服を着た兵士だった。

 崩折れる伯爵の喉を裂き、とどめを刺す。喋りすぎだと言わんばかりに。

 戸惑う兵たちを押し退け、エンディミオは軍刀を振り抜き、暗殺者の首を撥ねた。連れていた衛生兵が伯爵を診るが、すぐに首を横に振る。

 潜入暗殺の恐ろしさは、彼らの徹底した演技によるものだ。
 身分もしっかりと証明され、エンディミオですら、五年前に訓練所視察で見た顔だと自信を持って言える。

「陛下、お下がりを」

「ぬかせ、護衛対象を間違えるな!死体を持って走れ!」

 遺体と妻子を無理やり馬に乗せようとする兵を押し退け、剣を差し向ける者がいた。
 さらに兵士の動きを撹乱するために、二人の間者が動く。

 彼らは亡命する伯爵を殺し、情報の漏洩を防ぐためだけに死にに来たのだ。

 エンディミオは間者の一人を袈裟斬りにして突破。そして何を思ったか、怯えて動けぬ伯爵夫人を庇い、長剣をその身に受けた。

 鈍い衝撃に、エンディミオは姿勢を崩し倒れる。それでも獅子奮迅の勢いで立ち上がり、暗殺者の脇から胸を斬った。

 剣は思ったよりも深く刺さっており、抜いては危険と判断された。
 兵士たちは王の救命を最優先に、残った間者の一人は置いて、急ぎ国へ走った。






 王が暗殺者の凶刃に伏したと聞いたフリードリヒは、卒倒することだけはなんとか堪えた。
 青褪めた顔の主を、侍女らがなんとか宥める。王はしばらくは動けないが、死したわけではない。

「……んと、伯爵夫人は、ご無事なの?」

「はい、しかとお守りしておりますわ」

「陛下が守った方だものー。絶対に、絶対に死なせないで」

「もちろんですわ。そして王妃様、どうか陛下の目が覚めるまでは……」

「うん、お外には出ないよ」

 聞き分けのよい王妃に、侍女や護衛たちはほうと息をついた。ただ、フリードリヒは指先が真っ白になるほどに黒曜石の鏡を握り締めていた。
 
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