短編
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子供の双子と剛崎(トロイメライ)
葦弥騨の剛崎夕星といえば、アルヴァのどんな屈強な兵さえ敵わぬ、一騎当千の武士だ。
葦弥騨の権威復興のために、剛崎は幾万もの首を撥ねてきた。
というのに近頃与えられた任務はといえば、王妃の部屋の警護である。
“戦さの申し子”と呼ばれる彼にとって、これ以上の屈辱もない。
だが宗主国の妃の護衛を、別民族が務める。誉れ高き職であり、信頼されている証拠。
盟主に不服を申し立てても、頑張れよ、しか返事がなかった。
交代があるのが救いだ。でなくば怒りに頭に血がのぼって仕事にならない。
「糞ッ……」
『こういった場では、口を開くべきではないぞ』
「っるせぇぞこん糞チャボ」
注意してくる声良鶏に悪態をつく。剛崎は怒りやすいという欠点を持ち、全く護衛向きではない。
何しろ守るべき王妃が厄介だ。暇なのか扉越しにやたら話しかけてくる。
妃と会話をすれば懲罰を受ける。怒鳴りたい気持ちを抑え、扉を軽く叩くぐらいしかできない。実はそれも懲罰対象だが。
ついでに王妃が契約している戦神までちょっかいをかけてくる。
リウォインの吹雪く山奥から徒歩で帰ってきた時も辛かったが、この護衛任務の時間も同じくらいに辛い。
つと、気配がした。隠れる努力はしているようだが、無意味だ。
ち、と舌打ちすると、子供が二人、柱の影から現れた。ただの子供ではない。王妃の子――王位継承権を持つ特別な人間だ。
「あら、いつもの衛兵と違いますの」
剛崎は子供が苦手だ。どう対処すればいいかわからないし、高い声はとても耳に障る。
無視を決め込んでいると、エバ姫は容赦なく、剛崎の長い三つ編みに触れた。
「綺麗に伸ばしてますのね」
背筋が粟立つほどの嫌悪感に、剛崎は顔を歪めた。葦弥騨人は他人からの接触を嫌うが、剛崎のそれは病的でさえある。
いつもならば、睨むか抜刀するかなりして追い払うが、そうもいかぬ相手。ただ無言で堪えるしかない。