短編
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食後にすぐ何処かへ行こうとする息子を引き止め、フランツは何でもないことのように言った。
「アレックスは知人の子だ。訳あって引き取った。今日からお前の兄となる」
「ふーん」
「そして家督はアレックスに継がせる。ローレンツ、お前はリウォイン国軍の兵役につけ」
「はっ?」
二人の少年は驚愕し、揃って伯爵を見た。特にローレンツは激昂し、卓に乗り出す。
「なっ、どうし、ちょい待って待って。え、は?どういうこと?」
「家を存続させるには、これが良いと判断した。
ローレンツは学校に行きたいと言っていただろう。国軍経営の寄宿舎学校に入るといい」
「いや、待って……だってこの家から離れるわけじゃん」
兵役に就く若者は、宿舎費も学費も免除される。小遣いは自分で稼ぐか実家から出してもらうか。
この制度によって、口減らしされる子どもも少なくない。しかし叩き上げの軍人は差別を受けることもある。
「お前は自立心がある。素質もある。適任だ」
「ま、待ってください閣下。私が軍に行き、この家のために働くべきです」
アレックスも意見した。暗殺が家業であるとは聞いている。アレックスの生家は普通の領主で、そういった事とは無縁だ。
フランツは刃のような鈍色の眼で、アレックスを射抜く。淡々と、事務報告のように言う。
「ローレンツは十二歳だが、暗殺者としての腕は保証する。軍部に伝手はある、悪いようにはされないだろう。貴族の子息ならば、普通の学生よりも帰省する機会は多く与えられるはずだ」
「……だったらさー、このおにーさまに、弟のことを教えた方がいいんじゃないの?」
「ローレンツ」
「うるっさいなー、家族に秘密とか良くないっしょー。
離れの棟に、俺の弟がいんの。フリードリヒっていう、可愛いやつ」
「病で長くはない。離れには近づくな」
「あれ病気じゃないよ。そんな感じじゃない」
「黙れ、この事は内密に」