短編
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アレクが養子入りしたばかりのロランフリの会話(トロイメライ)
「ほら、あーってして。あーって」
「ぁ、あー……」
ローレンツは弟の頭を押さえ、開いた口にスプーンを入れた。フリードリヒはしばらく口内をもごもごとさせていたが、なんとか飲み込んだ。
「まーだ全然減ってないー。食べ終わるまで寝たら駄目だかんねー」
たかだか一杯の豆のスープを、フリードリヒは長い時間をかけて食べていた。
侍女に任せると、寝かせたまま放ってしまう。ローレンツは甲斐甲斐しく、弟の世話を焼いていた。
「ねーフリッツ、一昨日に父上が連れてきたアレックスって奴なんだけど」
「ふぅう、ふぁい」
「なんかー、うちに迎えるんだって。俺よりみっつ年上だから、まじでー?あいつが兄さんー?って感じー」
「にいさま、増え、るの……」
「でもフリッツは、俺の方が好きだよね?ね?」
フリードリヒはよくわからないまま、何も言わず頷いた。
夕餉の食卓につくと、しかとアレックスが対面にいる。赤毛の賢そうな少年で、目を伏せて静かに座っている。
なにかボロを出さないかと、ローレンツは馴れ馴れしく話しかける。
「ねーねー、うちの父上ってどう思う?」
「……」
「どこから来たの?兄弟いる?お母さんはどんな人?」
「……」
「はー、つまんね」
うんともすんとも言わない。足で床を鳴らしたり、卓を指で叩いても、特に反応はない。猫と遊ぼうかとした矢先、フランツが遅れて入ってきた。
「ローレンツ、試すな」
わざと苛つかせ、どんな反応をするのか、どんな人間なのかを調べる。子どもだからこそできる探り手を、フランツはたしなめた。
伯爵が上座に着く。貴族の家には不似合いな、粗末な食事が始まった。
豆のスープに、芋とパンを練って団子にしたもの。侍従と同じ食事だ。当主は葡萄酒も飲まない。
「鹿肉の燻製じゃーん!父上なんかいいことあったー?」
「静かに」
「これ俺が捕ったやつっしょ雌だけど。次は雄を捕りたいにゃー」
「静かに」
この無意味な応酬は、食事が終わるまで続いた。