短編

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 だからこそ、群の役割を外れたものは許さないのだ。
 此度の会議も、ケツァルコアトルに対する詰問だった。

『恐れていたことが起こったぞ。“金星の裁き”が人手に渡った。今が最も安定しているというのにだ』

『頼むから、魔女に差し向けんでくれよ』

『あな恐ろしや。あの鑓(やり)は、わらわの時空も切り裂いてしまう』

 翡翠はフリードリヒの肩から下りて、真の姿を顕にした。
 神々の視線をものともせず、滔々と語る。一方でフリードリヒには、鳥共の厳しい目つきも、つぶらな瞳にしか見えず萌えていた。

『愚問です。いつかその日が来た時、人が扱えるかどうか試さずどうするのです。
本日は金星六神がほぼ揃っているようですが、不満があるならばあなた方で御せばよろしい』

『ならばその契約者を討ち取ってもよいと』

 挑発された鵜が首をもたげ、それを鳰が小さな体を賭して止める。

『やめましょう“純白たる黎明”――ああ、偉大なる風よ、誰より人を愛する貴方が、何故そのようなことを』

『“折れた灰刃”の裁きの権能。
“緋に侵食する荒野”の大型兵器製造能力
“翡翠の雪ぎ”の炎の力
“満たされる紅の杯”の死のあぎと
――それらを合わせ、貴様はただ攻撃するための存在を造った。この意味を忘れたわけではあるまい』

『当然、敵を討ち滅ぼすためです』

 即答であったが、意味はわからなかった。突き詰めればただの自然現象でしかない神に、敵味方の概念など無い。

『ふざけるな。“忌まれし森”を突くための槍ではないぞ』

『いいえ。“純白たる黎明”あなたには判らないでしょうね。人の子を見ないあなたには』

 一触即発の空気に、さすがのフリードリヒもたじろぐ。
 青年は慌てて間に入ろうとしたが、ケツァルコアトルは微笑み、よしよしと銀髪を撫でた。

『ところであなた達は、わたしの金星が不在と見越しての糾弾でしょうが――』

 ケツァルコアトルが右手を掲げる。指で円を描き、数式を打ち込む。

『おう風よ、先に言うがまたこの落ちか』

『“灰白(かいはく)に滅した後”はわたしの付随機能。わたしだけでも起動できます』

 世界が白く染まり、フリードリヒの耳元で、ぶつんと音がした。




 昼寝から覚めると、枕元で鵲が転がっていた。
 黒い腹を突っつき、フリードリヒは少し不安げに問うた。

「ケツァルコアトル様、ちょっと変わりましたねー」

 以前はいさかいを避け、どんな意見も最後まで聞いて考慮し、解決を図る性質だったはずだ。フリードリヒを金星の裁きに巻き込んだまま、放っておくのも彼らしくない。

「僕、なにかしちゃったのかなー」

『わたしも奴も“忌まれし森”の件で人に関わりすぎたからな。奴の感情指数が跳ね上がったのは確かだ』

「感情、んと、ケツァルコアトル様はなんだかお怒りで?」

『金星の裁きを造った時も、割とあんな感じだったな。百年寝かせておけば戻るだろうよ』

「そんな、お漬物みたいにー」

『発酵物と一緒にするでない』

 主人がの起床に気づいたらしい、侍女が天蓋布を上げた。王妃は鵲の首をくすぐり、日常に戻った。
 
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