短編
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フリリク:有二晋哉あまあま(ゲロ)
「風邪?」
「そうなのよ。今日はお医者様もお休みでね、運が悪いわ」
「そんなにひどいの」
「熱が高めなぐらいよ。薬飲んで寝れば、すぐに治るわ」
朝から弟の姿を見ないと思えば、すっかり寝込んでいるとのこと。
手つかずの朝食を見て、起き上がれないのか、と晋哉は判断した。
「薬と、水と、ああそうだ、お粥つくってあげないとね」
母の片手にある小鍋を、晋哉は必死に取り上げた。
白粥と水を載せた盆を手に、晋哉はそつと弟の部屋のドアを開けた。
テレビは映像を流したまま、有二は寝ている。時たま咳き込み、寝苦しい様子だ。
(寂しいのかな)
テレビ番組には興味のない晋哉だが、父親に本を読んでもらわねば眠れない時期があった。人の声音が落ち着くのだろう。
盆を卓に置き、病人を起こす。
意外な人物が自室にいることに有二は驚き、ついに幻覚が見えたかと疑う。
「ご飯」
「お、お前……学校」
「一日ぐらい休んでも平気。食べて」
晋哉は自身が健康体であるために、看病の仕方がいまいちわからなかった。
レンゲを取り、粥を弟の口元まで運ぶ。
「いやいや、自分で食えるって……」
いつもの拒否にも、どこか力がない。晋哉はもう片方の手を、有二の顎に添えて、半ば無理矢理食べさせた。
「味は」
「……うまい、です。だから、自分で食えるから」
椀を取られ、晋哉はテレビを消して弟の具合を見ていた。
咳をしながらのゆっくりとした食事に、晋哉は不満を覚えた。
このまま白粥では、あまりに作りがいがない。当面はうどんか素麺でいいかなどと、投げやりに考えてしまう。
「……寒い?」
「寒気は一応、熱もあるけど」
「アルベルト、貸そうか」
寂しさを紛らわせる存在をを示せば、有二は首を横に振る。
「じゃあ一緒に寝てあげようか」
脈絡のない発言に、有二は水を器官に詰まらせて咳き込む。
「な、なに言って……」
「他人に感染(うつ)すといいんでしょ。感染されたことないけど」
「いいって……狭くなる」
冗談ではなさそうだ。有二はきっぱりと断る。
晋哉が立ち上がり、弟に近づいて額を合わせる。汗に滲むそこは、不自然に熱い。
「早く治して。弁当が無駄になる」
「……わかった。じゃ、おやすみ」
布団に潜り、早々に眠りに落ちた有二を見て、晋哉は盆を持って部屋を出る。
それを感じた有二は、額を押さえて嘆息した。
「自分が寂しいからって構うなよ……」