BL小説集
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『風の流れ、調和の光、全ての心の臓を捧げるために生まれ、自らの火に焼かれて死ぬ者』
「ちっ、やめろ!小僧――」
『夢見る父の眷属――“翡翠の雪ぎ"を招致します!』
あまりに理不尽な力に、エンディミオは扉ごと吹き飛ばされた。数秒遅れ、これは突風だと理解できた。
応接間の両扉は蝶番ごと外れ、無惨にも床に転がる。
バスティアンは銃を向ける気にもなれず、部屋に入るフリードリヒを見守る。
ヘルガは確信した。今槍を向ければ殺されると。
この王妃はやるだろう。一切の迷い無く、神を使って。
フリードリヒの大腿から流血を認めたエンディミオは、妻を止めようとした。
が、フリードリヒは愛しい人に微笑みかけ、尚も歩んだ。
そして三人の王を圧倒した、ただ一人の青年は“忌まれし森"の前で座り込む。
「……血が血/いっぱ>い出__てる!るいたい=たそう死/:んじ-ゃう.よう」
「でも、それが……生きて、いる証、です」
呼吸が乱れる。血の臭気に胃液を吐いたが、それでも続けた。
「聞い、て……ください。あなたに与え……るものが、ひと、つ、あります」
フリードリヒは少し膨らんだ下腹部に手を当てる。そして慈悲深い笑みを浮かべた。
「僕は……あなた、に会うために、生まれ、て……きたの、かも、しれ、ない」
思わずそう口走ってしまうほどに、それは偶然だった。