BL小説集

□4
13ページ/34ページ

 

 王は、眠る妃の目が開くことを望んでいた。

 この王妃は、つくづく憐れな者だ。

 いずれは教会や、それに準ずる権力に喰われるだろう。
 宰相らが言わずとも、エンディミオは唯一の保護者として、伴侶の地位は全うするつもりだった。


 はてさて、このまま目覚めないのではないかという、王妃の銀髪を撫ぜていると、わずかに動きがあった。

「……へ、いか?」

 これは夢か現か、しばらく逡巡していたフリードリヒだが、点滴の針の痛みが、答えを打ち出す。

 慌てた妃は、いつになく素早い動作で起き上がる。

 だが、突然の動きに驚いたエンディミオが、反射的に王妃の頭をひっぱたく。

「あいたっ」

 額を摩り、恐る恐るエンディミオを見る。

 心底呆れたような王の表情に、フリードリヒはひどく安堵した。
 堪えていた恐怖がどっと溢れ出し、それは涙となって零れた。

「あ……も、申し訳、ございません……」

「みっともない。さっさと拭え」

 エンディミオは敷布をフリードリヒの顔に当て、やや乱暴に拭き取る。

「あ、の……も、大丈夫です」

 王の手を取り、洟を啜りつ礼を言う。
 エンディミオは興味をなくしたように、その場から去った。

 入れ代わりように、侍女や医師が戻ってくる。

 ぐずぐずと洟を鳴らすフリードリヒに、まさか王が泣かせたのではと悶着があったのは、言うまでもなく。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ