BL小説集
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王は、眠る妃の目が開くことを望んでいた。
この王妃は、つくづく憐れな者だ。
いずれは教会や、それに準ずる権力に喰われるだろう。
宰相らが言わずとも、エンディミオは唯一の保護者として、伴侶の地位は全うするつもりだった。
はてさて、このまま目覚めないのではないかという、王妃の銀髪を撫ぜていると、わずかに動きがあった。
「……へ、いか?」
これは夢か現か、しばらく逡巡していたフリードリヒだが、点滴の針の痛みが、答えを打ち出す。
慌てた妃は、いつになく素早い動作で起き上がる。
だが、突然の動きに驚いたエンディミオが、反射的に王妃の頭をひっぱたく。
「あいたっ」
額を摩り、恐る恐るエンディミオを見る。
心底呆れたような王の表情に、フリードリヒはひどく安堵した。
堪えていた恐怖がどっと溢れ出し、それは涙となって零れた。
「あ……も、申し訳、ございません……」
「みっともない。さっさと拭え」
エンディミオは敷布をフリードリヒの顔に当て、やや乱暴に拭き取る。
「あ、の……も、大丈夫です」
王の手を取り、洟を啜りつ礼を言う。
エンディミオは興味をなくしたように、その場から去った。
入れ代わりように、侍女や医師が戻ってくる。
ぐずぐずと洟を鳴らすフリードリヒに、まさか王が泣かせたのではと悶着があったのは、言うまでもなく。