BL小説集
□3
31ページ/35ページ
エンディミオが部屋から出ると、宰相をはじめ、大臣から侍女、部屋の警備をする衛兵までもが、王を見つめていた。
「何だ」
代表とばかりに、ダイケンが一歩前に出て発言。
「陛下、よもやあの方に、下手な事は吹き込んでいないでしょうね」
「吹き込むも何も、特に話すことなどなかった」
「今、王妃様は繊細な時期です。むやみに傷つけるような事をしては……」
馬鹿馬鹿しい、とばかりに、エンディミオは背を向ける。脚は執務室へ。
「陛下!」
「確かにあれは、馬鹿で無知で、あげく文句垂れだが、少なくとも私の前で泣き言をほざいた事はない。ましてや、泣くこともしなかった」
それだけを言い残し、エンディミオは去った。
仕事が残っている宰相や大臣も、王の後を追う。
湯浴みを終え、顔に付着した甘味や紅茶を落としたフリードリヒは、兄からの手紙の返事を綴っていた。
難しい言い回しは書けないが、単語のつづりならば、なんとかなる。
兄アレックスもそれを理解しており、非常に簡単な言葉だけを繋ぎ合わせた内容だった。
涎を垂らさぬよう、気をつけて書いていると、卓上に翡翠が現れた。
「ケツァルコアトルさま」
この翡翠は、常にフリードリヒの傍にいるわけではない。
一日に数回現れ、フリードリヒが起きていれば、軽い会話をするのみだ。