短編

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娘さんをください(トロイメライ)

 アルヴァ国王エンディミオは、いつになく苦い顔をしていた。

 というのも、かの二人の王よりも厄介な人物が来ているからだ。

「結婚式にも、出産祝いにも呼ばれなんだ。だから来てやったぞよ」

 やたら偉そうに、車椅子で踏ん反り返るは、教会最高指導者の男だった。

「呼んだ覚えはない」

 教会はこの国とは、切り離せない存在。エンディミオ自ら接待せねばならない。
――というか、この男の接待は、誰もしたがらない。

「あれが汝の娘か。汝に似ず、可愛らしいではないか」

 庭先の廊下からは、接待用の庭園が見える。

 庭園では王妃が、自分の子供達と楽しげに話していた。
 というに、この男は幼い王女しか眼中にない。

 この異常なまでの女好きが、宗主の欠点だ。どうして歴代宗主は、こう揃いも揃って好色なのか。

「……言っておくが、王女はまだ五つだ」

「年齢なんぞ関係ないわ」

 時代が時代ならば、犯罪者である。
 我慢の限界にきたエンディミオは、車椅子を蹴った。

「わかったわかった。成人したら娶ってやるわ――というか起こさぬか」

 打ち首にしてやろうか、とエンディミオが剣を抜きかけた時、王女エバが、床に倒れた宗主に近づく。

「おきゃくさま?」

「こちらに来るな。母の方へ行っていろ」

「可憐なお嬢様。美しい宝石はいかがかね。それとも歌でも紡ぎましょうか」

 床に転がったまま口説き始めた宗主を見下ろし、何を思ったか、エバは足を振るう。

「ちねー」

「うぶふっ?!」

 顔面に蹴りを食らった宗主は、痛みよりも、精神的な衝撃で撃沈した。

「……。よくやった」

「うふふー」

 誰かが咎める前に、エンディミオは娘の頭を撫で、功績を讃えた。

 お父様に褒められたっ、と嬉しくて仕方ないエバは、それ以降、教会宗主に攻撃的になったとか。
 
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