BL小説集
□トロイメライ
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「お二方。妃が怖がってしまいますよ。ああ、エンディミオ陛下、ご結婚おめでとうございます」
でっぷり肥えた体を、深緑の軍服に押し込めた風体。
椅子は心なしか、沈んでいるように見えるし、腰に帯びた剣は玩具に見える。
金大猪(きんおおいの)王とあだなされる、西の島国サイーラの王。バスティアン・オノーレ=サイーラ。
今にもはちきれそうな軍服を、物珍しげに見るフリードリヒ。
傍らには彼の妃が控えていたが、気づくのに時間がかかった。
二重どころか、三重はありそうな顎と腹を揺らし、バスティアンは快活に笑った。
「若いお二人に祝福あれ」
「ふあ……ありがとう、ございます」
素直に礼をすれば、バスティアンは妻と、いい子だねーうちの子にしたいねーと笑い合っていた。
王というより、近所の気のいいおじさんだ。
思わず呑まれそうになっていたフリードリヒを、エンディミオが再び小突く。
「阿呆め。そなたは誰のものだ」
「……も、申し訳、ございません」
痛みよりも、エンディミオに「誰のものか」と言われたことに驚いた。
自惚れていいのかなあ、いいのかなあと思案していると、フリードリヒを呼ぶ声。
「新しいアルヴァの妃へ、我らから贈り物です」
「ふくく、危ないものではないから、安心して。私そこまで馬鹿ではないから」