☆彡秋のエゴイスト2

□本当の誕生日
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ヒロさんの様子が・・・明らかにおかしい。

白昼の告白電話は一度きりだったけれど、あれ以来毎晩、仮眠を取る頃になるとヒロさんから電話がかかってくるようになった。

内容は天候とか、俺の体調を気遣う言葉とか、当たり障りのない会話から始まって・・・最後は必ず『好き』で終わる。

耳を澄ませばどうにか聞こえるくらいの小さな声で言う時もあれば、ぶっきらぼうに・・・でも心を込めて言い捨てて直ぐに切る時もあるし、さりげなく言って『じゃあな』って切られることもある。

言い方は様々だけれど、毎回すごく照れ臭そうで、勇気を振り絞って言ってくれているのは感じ取れる。

『好き』って言葉にしてもらえるのはすごく嬉しいけれど、ヒロさんに無理はさせたくない。

たまにしか言ってもらえなくても、ヒロさんの態度で俺のことを好きでいてくれるのはわかるから、それで構わないと思っている。

また俺のことで一人でグルグルと悩んでいるのだろうか?

心当たりはまったくないけれど、知らないうちにヒロさんを不安にさせるような言動を取ってしまったのかもしれない。

ちゃんと意思表示しないと俺に嫌われてしまう・・・なんてネガティブ思考に陥っている可能性は大だ。

今夜は着替えを届けに来てくれることになっているから、ちゃんと顔を合わせて話を聞いてあげよう。

そう思っていたのに・・・

急患が立て続けに入って、すっかり遅くなってしまった。ヒロさん、もう帰っちゃったよね。

ガックリと肩を落としながら着替えの入ったバッグを受け取りに受付に向かっていると

「野分。」

えっ?・・・振り向くと、ロビーのソファーの前にヒロさんが立っていた。

「なにぼーっとしてんだよ。人の前素通りしてんじゃねーよ。」

「あわわっ・・・失礼しましたっ!!」

もう終電間近なのに、待っていてくれたんだ///

笑顔でヒロさんに駆け寄ると、差し出されたボストンバッグを受け取った。

「お疲れ様です。届けていただいてありがとうございます。」

「疲れてる?」

「少しだけ。ヒロさんの顔を見たら元気が湧いてきました。」

「それなら待ってた甲斐があった。実はさっき津森にからかわれてムカついて帰りかけたんだ。」

先輩・・・俺のいない間になにやってるんですか〜!後で抗議しないと。

「時間あまりないけど、ちょっとだけ座って話しませんか?」

ヒロさんを促してソファーに腰を下ろす。

「俺もヒロさんが好きです。」

「ん?」

「電話の時、俺が返事をする前にいつも切られちゃうから。」

「すまん。らしくないことして、一人でテンパっちまって。毎晩電話したら迷惑・・・だったりしねーか?」

ヒロさんは俯いたまま不安そうにしている。

「迷惑だなんて思ったことはありません!すごく嬉しいです。だけど、ヒロさんはそういうことをしない人だって認識していたので心配で・・・俺がなにかしたなら謝ります!嫌いになったりもしませんから、無理はしないでください。」

正直、告白電話がかかってこなくなってしまうのは残念なのだけれど、ヒロさんのためを思えば仕方が無い。

「あー・・・そんな風に思われてたのか〜」

あれれ?ヒロさん、頭を抱えちゃった。

「えっと・・・だな・・・素直に喜んでくれていいから!!」

「はい?」

「無理をしていなくはないが、俺がやりたくてやってることだし、もう暫く続けるつもりだから。」

それって・・・

「俺のこと嫌いになりましたか〜!!」

「何故そうなる!?」

「だって、俺のことを好きだって言葉に出すことでそう思い込んでいるんじゃないんですか?他の人に心が揺れ動いているけど、ヒロさんが好きなのは俺だけだって自分に言い聞かせてるとか・・・」

「そんなんじゃねーって!お前、前に俺に言ったよな?『もっと素直に言葉を受け取って欲しい』って。」

あれは確か、雪遊びをした翌日俺の身体が火照っていたのを熱があると勘違いしてヒロさんが看病してくれた時の・・・そんな昔に言った言葉、ヒロさんはちゃんと覚えていてくれたんだ。

「ごめんなさい。ヒロさんの気持ちを少しでも疑った俺がバカでした。」

クスッと笑うと、ヒロさんは俺の頭をポンポンと叩いて・・・

「野分・・・好きだ///」

小さな声だけれど、優しく囁いてくれた。

「俺も好きです。」

ヒロさんをゆっくりと抱き寄せて・・・どちらかともなくキスを交わす。

ヒロさんが『好き』って言ってくれてすごく嬉しい・・・理由なんてどうでもいいから、もっともっと言ってください。

「好き・・・ヒロさんが好きです。ヒロさんは?」

「聞くな!バカっ///」

どうやらヒロさんの『好き』は一日一回の限定らしい。

「プッ・・・ヒロさん・・・可愛い///」

「終電の時間だからもう帰る。」

「時間切れですね。」

残念・・・

「おやすみ!」

「おやす・・・んぐっ・・・!?」

おやすみなさいのチュウ!?

真っ赤になって逃げるように廊下を走り去るヒロさんの背中を見送りながら、緩んだ頬を引き締める。

ありがとうございます。ヒロさんのお陰で明日からもまた頑張れます。
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