☆彡秋のエゴイスト2
□誕生日は君のために
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そうして迎えた誕生日当日。
仕事の方は忙しかったけれど頑張って8時頃には帰宅することができた。
冷蔵庫から用意しておいた食材を取り出して早速調理にかかる。
ヒロさんはあまり食べないように気をつけると言ってくれたけれど、空きっ腹でお酒を飲むと酔いが回りやすいし、会場もチェーン店ではなく美味しいと評判の店だったから『俺に構わず沢山食べてきてください。』と言っておいた。
でも、ヒロさんのことだからお酒も料理もほどほどにしちゃうんだろうな・・・
そんなことを考えつつ、献立を考えた。
メインは白身魚の和風ムニエル。あっさりとした味付けの大根の煮物と、アサリのお味噌汁。ドリンクは白ワインだ。
お祝い料理としては地味だけれど、胃に優しくて上品な感じの盛り付けにしてみた。
ケーキ屋さんの閉店時間は過ぎてしまったけれど・・・
ピンポーン♪
「はーい!」
9時に時間指定しておいた宅配でケーキが届いた。再配達になる前に帰宅した自分を褒めてあげたい♪
中身を確認して、ヒロさんの名前が書かれたプレートに笑みが洩れる。
やっぱり誕生日はホールケーキだよね。ショートケーキやコンビニのケーキが恒例になりつつあったけど、今回は思い切ってホールを注文したんだ。
料理は温めるだけの状態にして、ケーキは冷蔵庫に。あとはヒロさんの帰りを待つばかり・・・
暇だから飾りつけとかしちゃおうかな?でも、明日は朝早いし、片付けるのがヒロさんになってしまいそうだ。
昔、草間園で誕生日会に紙吹雪やクラッカーを使ってみたことがあったっけ。
盛り上がって楽しかったけれど、パーティーの後、全員で大掃除をする羽目になった。
飾りつけは止めて『おめでとう』を言う練習をすることにした。俺は語彙力がないから毎年決まって『ヒロさん、お誕生日おめでとうございます♪』になってしまう。
気の利いたセリフを言えない分、お決まりの言葉に心を込めないとね。
椅子に座って、向かいの席にヒロさんがいるつもりで笑顔を作る。
「ヒロさん、お誕生日おめでとうございます♪」
今は作り笑顔だけれど、ヒロさんを前にしたらきっと心からの笑顔になれる。ヒロさん///
何度か練習したところで、玄関が開く音が響いた。ヒロさんだ!
「だだいま。」
「おめでとうございます!!」
「えっ・・・?」
「あ、間違えました!お帰りなさい。」
勢い余って先走ってしまった。苦笑する俺を見て、ヒロさんもクスクスと笑ってくれた。
「思ってたより早かったですね。楽しかったですか?」
日付が変わるギリギリになることも覚悟していたのに、まだ10時前だ。
ほんのりと赤くなってるけど、酔っぱらってはいないみたいだし。
「ああ、楽しかったよ。料理も美味かったし、こうしてずっと文学の話をしていられればいいのにって思うくらい楽しかった。」
「それなのにこんなに早く帰ってきちゃって良かったんですか?」
俺を気遣ってくれるのは嬉しいけど、こういう機会ってあまりないみたいだし・・・
「うん。楽しいと思うと同じくらいお前に会いたいと思ってたから。」
「えっ?」
「なんか、幸せな気分の時にはお前に隣にいて欲しいっつーか・・・自分でもよくわかんねーんだが、お前がいないと物足りねーんだよ。」
それって・・・
「俺のことが大好きだからですか!?」
「・・・」
「ヒロさん〜」
どうしてそこで考え込んじゃうんですか〜
「好きだけど、ここで認めたら負けな気がする。」
そう言うと、俺に鞄を押し付けて洗面所の方に入って行ってしまった。
シャブシャブと勢いよく水が流れる音がする。酔い覚ましに顔洗ってるのかな?
『大好き』とまではいかなかったけど『好き』って言ってくれたから良しとしよう。ヒロさんは気づいてないみたいだけど。
緩んだ頬を手のひらでパンパンと叩いてキッチンに向かった。