☆彡秋のエゴイスト2
□野分のお見合い!?
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そんなことがあってから数週間後…お見合い事件は妙な形で幕を閉じることになった。
「ヒロさん、お見合いの件なんですけど。」
「日程が決まったのか?気になって仕事に支障をきたしそうだから俺に言うなよ。」
普通に振舞うように努力してくれていたみたいだけど、ヒロさんは気持ちがすぐに顔や態度にでるから、不安や苛立ちが俺にも伝わってきてずっと辛かった。
だけど、それも今日でお終いだ。
「先方の方からなかったことにして欲しいと連絡がありました。」
「えっ!?なんで!?」
「釣書の代わりに簡単なプロフィールと経歴を書いてお渡ししたんですけど、学歴欄が『大検合格』から始まってるのが気になったらしくて、俺のことを調査したようなんです。それで、施設出身なこととか高校に行ってないことがわかって、家柄が釣り合わないからって。」
そんな簡単なことでお見合いしなくていいことになるなんて思ってもみなかったから、施設出身で良かった〜と心から思った。
「なので、安心してください。もしまたお見合いの話がきたらこの手で断ります。もうヒロさんに嫌な想いはさせません。」
「お前…」
「ヒロ…さん?」
どうしたんだろう?俯いたまま拳を握り絞めている。
あれだけ不安にさせておいて、あっけなく解決してしまったから怒っているのだろうか…
「ごめんなさい。ヒロさんのこと巻き込んで振り回してしまいましたね。」
「そうじゃない!なんでテメーが謝るんだよ!?俺は、野分のこと何にも知らねーくせに家柄だけで評価されたのに怒ってんだ!」
ヒロさん…
「お前は悔しくねーのかよ!?お前を育ててくれた草間園を見下されてヘラヘラ笑ってんじゃねーよ!」
「ヒロさん、俺の代わりに怒ってくれてありがとうございます。だけど、俺…こういうのには慣れっこなので大丈夫ですよ。」
「そんなことに慣れんな!ボケカス!!」
ヒロさんは涙が溜まって真っ赤になった目で俺を睨みつけた。
「俺も昔は同じような偏見を持っていたのかもしれない。高校に行かないヤツは勉強が嫌いで逃げたか、ダメ親でどうしようもねー家庭で育ったヤツだって。俺には縁のない人種だって…何も知らなかったころの自分にも腹が立ってる。」
「ヒロさん…」
「中学出てすぐに働きだして、園に金入れながら学費も貯めて、勉強もして…俺がお前と同じ年の頃には想像もしてなかったような経験をお前はしていて…凄いと思ったし、尊敬もしたし…好きに…なった///」
ヒロさんが俺に引け目を感じることがあったなんて…
「大検に合格して、医大に入って夢に一歩ずつ近づいていくお前を俺は誇りに思ってるし、何処に出しても恥ずかしくない男だって断言できる。」
嬉しい…俺のことそんな風に認めてくれるなんて…凄く嬉しい。
「俺の選んだ男を出身や経歴で評価してんじゃねーよ!!くそババァ!!」
「ヒロさん!椅子!!」
怒りに任せて椅子を持ち上げたヒロさんを慌てて宥める。一体何処に向かって投げつけるつもりだったんだろう。
「ムカつく〜!」
「あはは…怒らないで。落ち着いてください。」
床に座り込んでいるヒロさんを後ろから抱きしめる。
「俺のことそんな風に思ってくれていて嬉しいです。俺がヒロさんのことを凄いと思っていたのと同じくらいヒロさんも俺のことを思ってくれていたんですね。」
「当たり前だろ…」
「知りませんでした。」
「お前はちょっと褒めると直に調子に乗るからあまり口に出さなかっただけだ。本人前にして言うことでもねーしな。」
そうですね。俺、ヒロさんに褒められて今もの凄く調子に乗ってます。
「今の俺があるのは草間園の両親とヒロさんのお陰だと思ってます。立派に磨き上げてくれてありがとうございました!」
「立派とか自分で言うか?」
「えへへ///」
笑って見せるとヒロさんもクスっと笑ってくれた。
「さっきは慣れっこっだって言いましたけど、あれ、半分嘘なんです。」
「ん…?」
「ヒロさんのご実家の周りには立派な家が立ち並んでいて、ヒロさんがこういう環境で育ったのかと思うと俺なんかが相手でいいのかな?って引け目を感じてしまうことがありますし、ヒロさんにお見合い話が来た時もいいところのお坊ちゃんだから仕方ないとか思ってしまう自分がいて…ずっと一緒にはいられないんじゃないかって不安になることがあります。」
幸いヒロさんもヒロさんのご両親も家柄に拘りはないようで良かったけれど、小さな不安の種は消えることなく心の奥で燻っている。
「俺もあるよ…『絶対』なんてありえないかもしれないってお前言ってたし、俺もそう思ってる。アメリカ留学の事件もあったしな。」
「あはは…あれは酷いすれ違いぶりでしたよね。」
だけど、すれ違いを重ねるたびにどんどんヒロさんに近づいて、わかり合っていけるような気がするんだ。
現に今も…お見合いを断られたことをヒロさんは俺とは全く違った視点で受け止めていて…
不安になるのはそれだけお互いを必要としているからだ。
「ヒロさん…」
「なに?」
「これからも沢山不安になって、沢山すれ違っていきましょうね♪」
「なんでそうなる!?」
怪訝そうに眉を顰めるヒロさんを思い切り抱きしめた。