☆彡秋のエゴイスト2
□大丈夫
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Side 野分
今日は日曜日。午前中までの勤務予定で、午後からヒロさんをデートに誘いたかったのだけれど、このところキャンセル続きだから止めておいた。
仕事が優先なのも、ヒロさんが俺の状況を理解してくれているのもわかってるけど、恋愛って理屈じゃないと思う。
いくらヒロさんでも、立て続けに約束を破られて待ちぼうけさせられてばかりじゃムカつくと思う。
こんなことは考えたくないけど、俺の他にヒロさんを好きになる人が現れて、その人がヒロさんと毎日会えるような職業だとしたら…俺が選ばれる保証はない。
あと一回でもドタキャンしたら次はないような根拠のない不安に襲われて、ヒロさんを誘えないでいたら…
『今日、昼までの勤務だろ?昼飯外で食べないか?』
ヒロさんからメールが届いた。
ヒロさんの方から食事に誘ってくれるなんて珍しい。嬉し過ぎて
『はい!絶対行きます!!』
なんて速攻で返信してしまったのだけれど…
救急車のサイレンが近づいてきて、病院の前で止まった。
「野分、まだいたのか?こっちはいいからさっさと帰れ!」
津森先輩はそう言ってくれたけど、外来は休診で小児科医は俺と先輩の二人だけ。運ばれてきた患者は3人とも子供だ。3人なら…
「ちょっとだけ残ります!」
ヒロさん、ごめんなさい。ちょっとだけ、待っていてください。
ハァハァと息を切らせて、待ち合わせ場所に辿り着いた時には約束の時間を1時間半も過ぎていた。
当然、ヒロさんの姿はない。フラフラとベンチにへたり込んだ。
どうしよう…最悪の事態だ。
ヒロさんが指定した待ち合わせ場所は俺達が出会った公園だった。
今回のランチデートは何かしらの意図があって誘ってくれたに違いない。これでドタキャンされたら別れる…とか…
「あ〜〜〜っ!」
思わず叫び声をあげてしまった。
病院を出る時に、謝罪と急いで向かうというメールをしたのだけれど、ヒロさんからの返信は来ていない。
怒ってる…よね…
こういう時は冷静に落ち着いて考えないと。余裕がなくてこれ以上ヘマをやらかすのは絶対に避けたい。
ヒロさんは何を思ってこの場所を選んだんだろう?やっぱり、別れるかどうか迷って…いやいや、悪い方にばかり考えちゃダメだ。もう少し前向きに考えてみよう。
いつも待たされてばかりだから、今回はヒロさんの方からドタキャンして仕返しするつもりだった…とか。
『俺もドタキャンしたからこれでお相子だな!』
って。ヒロさんは優しいから、俺を気遣ってそういうことをしてくれるかもしれない。
だけど、スマホには何の連絡も入っていない。ヒロさんは律儀で、時間に遅れそうな時とかキャンセルする時とかには必ず連絡をくれる人だ。
俺を嵌めるとしても、何も言ってこないのはありえないから、その線はない。
この前、電話した時…好きだと告げてもなにも言わずに切られてしまった。
『好き』とか『会いたい』とか口先だけだと思われてしまったのかも。いくら言葉を贈ったところで、ほったらかしにしてばかりで全然態度で示せていない。
それに『好き』とか会うたびに言っちゃってるし。思っていることを素直に心を込めて伝えているつもりだけれど、俺の『好き』に重みはないのかもしれない。
俺にはヒロさんに愛される資格なんてないのかもしれない。自信が持てない。ヒロさんに去られてしまったら俺にはなにも…
込み上げる不安に涙腺が緩みそうになった時…
「ウガッ!!痛った〜」
頭に激痛が走った。
痛む頭を両手で抑えながら、何が起こったのかと辺りを見回すと足元にペットボトルロケットが転がっていた。
「これは…」
どうやらこれが頭に直撃したらしい。拾い上げて首を傾げていると、茂みの向こうからヒロさんが現れた。
「ヒロさん!?」
「悪い!飛ばし方ネットで調べたんだけど上手くいかなくて、お前が着いちまったからやむを得ず投げつけてみたんだけど…頭、大丈夫か?」
「ものすごく痛かったです。人に向けて飛ばしちゃダメですよ。」
「そんなに痛てーんだ。一歩間違えば、俺はお前と出会う前に頭打って気絶してたかもな。」
あ…
「すみません…」
一目惚れで余裕がなかったとはいえ、思い起こすと、俺は初対面の時からヒロさんを振り回してばかりでしたね。
「謝らんでいいから、頭出せ。」
「えっ!?一発殴らせろって意味ですか?今、ペットボトルが当たったばかりで瘤ができてるんですけど…」
「そーじゃなくて…」
ヒロさんは俺の頭上にすっと手を伸ばすと…
「えっ…?」
髪をかき上げて優しく撫ぜてくれた。
「大丈夫だ。」
ヒロさんの声が心に響く。大丈夫…
「どうだ?安心した?」
「はい。」
大丈夫なんて根拠のない言葉だと思うけれど、尊敬する人からハッキリと言われるとすごく安心する。
「座れ。」
「はい。」
ベンチに腰掛けると、ヒロさんも隣に座ってくれた。
「お前、約束すっぽかすたびにスゲー気にしてただろ?俺、お前のしょぼくれた顔見たくなくて、何かしてやれることねーかなって考えてみた。」
「ヒロさん…」
「初めて会った時、失恋して泣いてたのに、お前に『大丈夫です』って頭撫ぜられて…落ち着いたの思い出してさ。強引過ぎてムカついたけど、あの時、お前がいてくれたから秋彦のこともすぐに吹っ切れたんだと思う。」
ヒロさんはそう言うと、俺に目を向けて微笑んでくれた。
「今度は俺がお前に『大丈夫』って言ってやりたくて、あの日の場面を再現してみようと思ったんだが…失敗して怪我させるところだった。ごめんな。」
「そんな…謝らないでください。俺のために色々考えてくださってありがとうございます!俺、てっきりヒロさんに嫌われたんじゃないかと不安に思っていたので、すごく安心しました。」
ヒロさんは本当に…優しい。大好きだ。
「仕事のことも俺とのこともお前なら…草間野分なら大丈夫だから。俺が言うんだから間違いない!」
「はい!」
元気に返事をすると、ヒロさんは笑ってもう一度頭を撫でてくれた。
「それにしても、お前遅刻し過ぎ!腹ペコペコなんだが。」
「すみません、お詫びにランチ奢らせてください。」
「いや、俺から誘ったんだから俺が奢る。」
「じゃあ、割り勘で♪」
「そうだな。」
向かう先はもちろん学生時代によく通っていたファミレスだ。
「ヒロさんが好きです。」
「ガキ!昼間っから外でそういうこと言うなって///」
「だって、電話で言った時すぐに切られちゃったから、気持ちが伝わってないのかなって…大事なことなので何度でも言います。ヒロさんが好きです。」
「アホか!伝わってないならこんなに真っ赤にならねーって///頼むから外で言わないでくれ。あの時は、うっかり返事しそうになってつい…」
「返事ってなんですか?」
ヒロさんは真っ赤になったまま俯いてしまった。
「俺が好きなら察しろ!バカ!!」
「えーーーっ!」
ヒロさんがの可愛い反応に笑いが洩れる。大好きです。返事は今夜聞かせてくださいね。