☆彡秋のエゴイスト2

□ヒロさんの背中
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フロントガラス越しに見慣れた景色を眺めながら溜息が洩れる。

ヒロさんに合わせる顔がない。このままずっと家に着かなければいいのに・・・

次の角を曲がればマンションの入り口が見える所で、たまらなくなって先輩を止めた。

「ここで降ろしてください。」

「ダメだ。エントランスまで送る。」

「嫌です!ここで降ります!」

「危なっ・・・なにすんだ!バカタレ!!」

咄嗟にハンドルに手をかけてしまい、急ブレーキがかかった。右にカーブして塀に擦れる間際で車が止まる。

「危なかった〜俺まだ仕事あるのに、警察沙汰になったらどうしてくれるんだ!」

「すみません!ごめんなさい!俺が全部悪いです!今度昼飯奢らせてくださいっ!!」

思いつく謝罪の言葉を並べ立てながら車を降りる。

「野分!安静だって言っただろ!歩くなバカ!!」

先輩の怒鳴り声を無視して歩き出そうとしたら

「野分!!」

曲がり角からヒロさんが現れてこっちに向かって走ってきてしまった。

「ヒロさん・・・」

歩いて帰って平気なフリをしようと思ったのに。

「お前、なにやってんだよ!!」

殴られた・・・

「どうしてここに?」

「津森さんから連絡受けて外で待ってたんだ。そうしたら、こっちの方からブレーキの音や怒鳴り声が聞こえてきて・・・」

ヒロさんは壁すれすれのところに止まって、助手席側の扉が全開になった車を見て慌てた様子で先輩に駆け寄った。

「津森さん!大丈夫ですか?」

「なんとかね。」

「うちのバカがご迷惑おかけしてすみませんでした。わざわざ送っていただいてありがとうございます。」

苦手なはずの先輩に深々と頭を下げている。

俺のために・・・それに『うちのバカ』って。『うちの』・・・あ〜〜っ///

「上條さん、俺はいいからあれ。」

「はっ!!野分!なに一人でヘラヘラしてんだよ!?」

また殴られた・・・

「入り口まで乗せて行きましょうか?」

「いえ、俺が運びます。お世話になりました。」

先輩は車をバックさせて、

「野分、絶対安静!だからな。」

そう声をかけると、ヒロさんに笑顔で手を振りながら行ってしまった。

「えっと・・・ヒロさん、ご心配をおかけしてすみませんでした。」

「謝罪は後だ。帰るぞ。」

「はい。」

「ん!」

「へっ・・・?」

ヒロさんは膝をわずかに曲げて前のめりの体勢で背中を向けてきた。

「なにしてるんですか?」

「俺が運ぶって行っただろ。さっさと負ぶされ!」

「い・・・嫌ですよ!大の大人が恥ずかしい///」

「夜だし、角曲がれば直ぐだし、誰も見てねーよ。」

「俺が恥ずかしいんです〜ヒロさんにおんぶして貰うなんて男としての沽券が・・・」

「ダダこねるならお姫様抱っこするぞ。」

「ヒイッ!!」

そうだった・・・ヒロさんはいつも力なく行き倒れている俺を片手で引き摺って、片手でベッドに投げ飛ばす人だった〜!

「わ・・・わかりました。背中お借りしますっ!負ぶさりますからお姫様だっこだけは勘弁してください!」

「ったく、俺には平気で恥ずかしいことしてくるクセになんなんだよ・・・」

「すみません・・・」

ヒロさんの肩に手をかけると、ヒロさんはヒョイッと俺を担いで立ち上がった。

ヒロさんの背中・・・ホカホカする。髪からも好い匂いがして、なんだかとっても・・・

「幸せです〜///」

「おいっ!ギュウギュウ締め付けんな!苦しい!」

「あ・・・ごめんなさいっ。」

慌てて締め付けていた手を緩めた。

ヒロさんは俺よりも小さくて、華奢で、力を込めたら壊れてしまいそうなイメージだけど・・・こうしていると頼りがいのある年上の男の人なんだと改めて感じる。

ヒロさんの背中・・・俺なんかよりずっとしっかりしていて頼もしい。

「重たくないですか?」

「愚問だ。」

「あはは・・・月が綺麗ですね〜」

月の美しい秋にはぴったりのI Love You♪

文学には疎い俺にもやっと使いこなせるようになってきて、今年こそはいい雰囲気でバッチリ決めようと思っていたんだ。

「月?新月だけど。」

「あ・・・」

「まだまだだな。」

「はい・・・」

クスクスと肩を震わせて笑うヒロさんに釣られて笑いが洩れる。

「それにしても、明日は一日お前と過ごせるって楽しみにしてたのにこんな怪我してきやがって。」

「ごめんなさい。俺が未熟なばっかりに。反省会でもお説教でも覚悟はしています。」

「そういうのは自分一人でやれ!医療の分からない部外者が説教しても仕方ねーだろーが。それより津森が言ってた絶対安静って何だよ?」

ん・・・?

「辞書で意味調べたら『寝たまま動かさずに平静な状態を保つ』とか『トイレと食事以外は横になって過ごす』とか、お前は直ぐに動こうとするからベッドに縛り付けとけってことか?」

「そんな大袈裟な。」

「医者の支持には従わねーと。出勤日までに治んねーぞ。」

先輩っ!生真面目なヒロさんに『絶対安静』って・・・もしかしてワザとですか!?

「あの〜足首だけ動かさないようにしていれば大丈夫なんですけど・・・」

「却下!診断に関しては津森を信じる!」

「そんな〜」

俺だってヒロさんと過ごすのを楽しみにしていたのに、お風呂はダメ、寝るのも別々でずっと寝てろってことですか〜!

「俺、こういうの苦手なんだが・・・足の手当ても介護もやってやるから、やり方教えろ。二人で頑張って完治させるぞ。」

ヒロさん・・・それって、付きっ切りでお世話してくれるってことでいいのかな?

「はいっ!」

何してもらおう?幸せ過ぎます〜///

「ヒロさんが足にキスしてくれたら一瞬で治ると思います!」

「やっぱ津森先生に教えてもらう。」

「ヒロさん〜!!」

「人の背中で騒ぐな!ボケカス!」

叱咤しながらも、背中は優しくて・・・

「あんまり心配かけんなよな。」

「はい///」

おんぶされるのは不本意だけど・・・ずっとこうしていたい。ヒロさん、大好きです。
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