純情エゴイスト〜のわヒロ編6〜
□買い物デート?
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そんなやりとりをしているうちにスーパーに着いた。自転車を停めてヒロさんと一緒に中に入った。
カートにカゴを乗せて…
「ヒロさん、何か食べたい物ありますか?」
「鍋料理。」
さっき暑いって言ってたのに何故!?お鍋はどちらかと言うと寒い日に食べる物のような気がするんですけど…
不思議に思っているとヒロさんが説明してくれた。
「二人で食材切ればすぐ食べられるだろ?それに、お前が居る時じゃねーと食えないし。」
「あーっ、そうですね。」
「炊飯ジャーセットしてきた?」
「あっ…」
「じゃあ、うどんも要るな。」
ヒロさんはそう言いながら野菜をポンポン放りこんでいる。トマトとアスパラガスも入ってるけど…まあいいか。
「何味のお鍋にしますか?」
ヒロさんの好みからするとやっぱり昆布出汁の効いた海鮮鍋かな。だけど、たまには変わった味もいいかも。
「豆乳鍋とかコラーゲン入りとかどうでしょう?美容に良いですよ♪」
「男に美容は関係ねーだろ。」
「そんなことないです。お肌がすべすべの方が触り心地が良いですし。」
「外でそういうこと言うなって。コラーゲンはともかく豆乳はヘルシーで良いかもな。」
そう言って、ヒロさんは豆乳鍋のスープをカゴに入れた。
「よし、あとは肉だな。」
「魚じゃないんですか?」
「ガッツリ食わねーと体力もたねーだろ?俺に合わせなくていいから肉食えよ。」
確かに、お肉の方がありがたいけど…
ヒロさんは夜間タイム割引の値のついた肉を次々に入れている。いくら割引品だと言っても多すぎなんじゃ…
「ヒロさん、そんなに食べるんですか?」
財布の中身が空になりそうなんですけど…
「俺じゃなくてお前に食わせるために買ってんだ。金は俺も出すし。」
「俺にですか?」
「お前、自覚ねーのかもしれないけど、この前会った時より痩せてるぞ。それに、今日だって爆睡してて起きられなかったんだろ。疲れが溜まってる証拠だ。」
全然気がつかなかった…ヒロさん、俺のために///
「ありがとうございます!頑張って沢山食べます!!」
しっかり体力つけてデザートにはヒロさんをいただきます♪
「お前…またしょうもねーこと考えてるだろ…」
「あはは…嫌だなぁ、気の所為ですよ。」
最後にビールをカゴに入れて…これで全部かな。
レジの列に並ぼうとしているヒロさんに声をかける。
「あっちのセルフレジにしましょう。」
「えっ…あ、ああ。」
ヒロさんは一瞬躊躇したけど、俺がセルフレジに向かって歩き出すと仕方なさそうについてきた。
「これ、楽しいですよね♪」
バーコードを自分でピッっとやるのは結構楽しい。手際良くカゴから取り出してバーコードを読み取っていく。
「ガキはこういうの好きだよな。」
そんなことを言いながらヒロさんは俺が持ってきたエコバッグに品物を詰めている。
「ヒロさん、今度は俺が詰めますからヒロさんがピッてしてください。」
「俺はいい。お前やれよ。」
俺は知っている。ヒロさんがセルフレジが苦手なことを。
「でも、その詰め方だと全部入りませんよ。」
「うっ…」
じーっと見つめると、ヒロさんは諦めたように場所を代わった。
豚肉のパックを手に取って、バーコードの位置を確かめると、恐る恐る赤い光のパネルに近づける…
普通ならここでピッと鳴るんだけど
「くっ…」
ヒロさんは顔を顰めてもう一度パックを翳した。
「野分、これ壊れてるかも…」
「大丈夫、壊れてませんよ。」
にこっとしながらそう言うと、ヒロさんはムスッとしてもう一度、今度は角度を変えてやっている。
だんだんムキになってきて
「おいっ!いい加減にしろよ。鳴らねーとぶっ壊すぞ!」
レジ相手に文句をぶつけている。可愛い…
自分でピッってするのも楽しいけど、こんなヒロさんの姿を観察するのもまた楽しい♪
暫くレジと格闘していると『ピッ』根負けしたようにレジが鳴った。
「やった!できた♪」
メチャメチャ嬉しそうだ。
「野分、後はお前がやれ!コイツ、俺よりお前の方が良いって。」
いつからレジは生き物になったんだろう?
「はいはい。」
一つできただけなのに…満足そうなヒロさんを見てクスクス笑っていたら
「下手なの知っててワザとやらせんなよな!クソガキっ!」
蹴り飛ばされるかと思ったら、不意打ちで膝カックンをやられて転びそうになってしまった。
「わわわっ…ヒロさん…何処でそんな技を…」
「本屋で高野さんにやられた。」
高野さん…俺のヒロさんになんてことしてるんですか〜!
「小野寺と一緒に本選んでるの見て俺に嫉妬したんだと。」
「あー、そうなんですね。」
出版社勤務の小野寺さんは、宇佐見さん絡みで知り合ったヒロさんの読書友達だ。
目をキラキラさせながら文芸の話をする小野寺さんを、ヒロさんは弟のように思っているようだ。
受け同士とは言え、仲良さそうに趣味に没頭されてしまうと…
なんとなく高野さんの気持ちがわかって笑ってしまった。
最後にビールをピッとやると、液晶パネルに年齢確認の表示が出た。
「俺が押す。」
『20歳以上』の黒いボタンを誇らしげに押すヒロさんに、『ヒロさんは子供みたいです』と心の中で囁いた。