純情エゴイスト〜のわヒロ編4〜
□手は口ほどにものを言う
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手話の本を一緒に選んで本屋を出た。
「一緒に探してくれてありがとうございました。ヒロさんの本は買わなくて良かったんですか?」
「また今度買うよ。今夜は読む時間なさそうだしな。」
「ヒロさん…それって///」
「ん?…うわっ///今のなし!!」
何をうっかり口走ってんだ〜///これじゃ俺が期待してるみたいじゃねーか…
「帰ったら一緒にご飯食べて、お風呂入って、イチャイチャしながら寝ましょうね♪楽しみだな〜」
コイツ、最近ますます性格悪くなってねーか?
「そうだ!ヒロさん、さっきの本に出ていたんですけど、手話で『好き』ってこういう風にするんですって。」
そう言って、野分は手を喉元に持っていってニュッと前に伸ばすような仕草をしてみせた。
「喉から手が出るようなイメージでって書いてありました。好きなものって欲しくなっちゃうからなるほどな〜って思いました。」
「ああ、それ前にテレビでやってたな。わかりやすかったから俺も覚えてる。」
それはそうと、野分のヤツ、本でどんな言葉を見ていたんだ?『好き』なんて患者に言うことじゃねーだろっ!
野分の方を見ると、手話で『ヒロさんが好き』と言っている。
「『さん』がまた『わ』になってるぞ。」
「えへへ…でも、ヒロさんにちゃんと伝わって良かったです。」
「バーカ…」
あれ?今の何だか違和感が…
「あのさ、その『好き』って動物とか趣味とかに使うもんなんじゃねーの?他に愛情表現ねーのかよ?」
喉から手が出るほど求められるのも悪い気はしないが、何かが違う気がする。
「ちょっと待ってください。」
野分は立ち止まって買った本をバッグから取り出した。ページを開いて目を走らせる…
「あった!『愛してる』っていうのがあります。右手で左手を撫でるようにするみたいです。」
「そっちの方がいいかも。」
相手を大切に想う気持ちが表れているような気がする。
「それと、中指と薬指を曲げて残りの指を立てるというのもあります。世界共通で『愛してる』の意味みたいですよ。」
「なんで?」
試しに手で形を作ってみたけどさっぱりわからない。
「えっと…小指が『I』で親指と人差し指が『L』で全体が『Y』で通して『I Love You』を表してるそうです。」
「ふーん…」
「これなら簡単だから、恥ずかしがり屋のヒロさんでも手軽にできますね♪俺に手話で『愛してる』って言ってくれていいですよ。」
「誰がするか!ボケ!」
確かに簡単だけど、軽いって言うか…気持ちが伝わるとは言い難い。
どこかのチャラい医者が喜んで使ってそうだ。
「あはは…バカなこと言ってすみません。ヒロさんには似合いませんね。」
野分はクスッと笑って、俺の手に指を絡めてきた。
「人が来たら離します。」
お互いに指を交互に絡めて…野分が先にギュッと握った。
あっ…この感じ…
野分の手から『愛してます』の言葉が伝わってきて…『俺も愛してる』気持ちを込めてしっかりと握り返した。
「ヒロさん///」
嬉しそうに頬を染める野分…ちゃんと伝わったみたいだな。
不器用だけど、これが俺なりの愛情表現。
「好きです!!」
突然唇を奪われて、慌てて払いのけた。まったく油断も隙もないんだから。
「外でそういうことすんな!クソガキ!」
いつものように野分の頭上に拳を振り下ろす。『また後で!』の気持ちを込めて…