純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜

□笑顔が見たいから
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風呂から上がって、野分の部屋に入る。

「野分、寒い…」

「はい。どうぞ。」

野分がベッドの端によって布団を捲り上げてくれたので、そこに入った。

野分と一緒に寝るのも5日ぶりだ。

「何してたんだ?」

「これ読んでました。」

サイドテーブルの上には秋彦の小説と宮城教授の奥の細道の解説書が積まれている。

どれも面白い本ばかりだけれど、野分は秋彦や教授にあまり良い感情を持っていないはずだ。

「お前、どうしたんだ?何かあった?」

「別に何もありませんよ。ヒロさんが好きな作家さんだから読んでみようと思っただけです。」

「ふ〜ん…面白かったか?」

「はい。」

野分はにっこりと笑って見せたけど、何かが引っかかる…

俺が本好きだから、一緒に本の話ができるように勉強してる…とか?

「無理して俺に合わせなくてもいいんだぞ。お前の時間なんだからお前がしたいことをしてろよ。」

「無理なんかしてませんよ。俺も本を読むのは嫌いじゃないですし。」

「それならいいけど…」

秋彦への執着心はもう無くなったのだろうか?

いつも通りのようにも見えるけど…この違和感は何だろう?

「ヒロさん、電気消しますね。」

「うん。お休み…」

「お休みなさい。」

(カチッ)

明かりが消えると同時に抱き締められた。温かい手が髪を撫であげ、唇が触れ合う…

空いている方の手がパジャマの中に入ってきた。

「野分!」

「なんですか?」

「眠れない…」

やっぱりいつもの野分だ…



「ただいまです。」

朝食を食べていたら野分が帰ってきた。

「お疲れ!夜勤明けか?」

「はい。また夕方から出勤です。」

「ゆっくり寝とけよ。」

「はい。もう眠くて眠くて…」

「アハハ…廊下や風呂では寝るなよ。」

からかうように声をかけると、野分はよたよたと部屋に入ろうとした。それから、思い出したようにボストンバッグに手を入れると書店のカバーの付いた本を取り出した。

「この本、面白かったんですけど、ヒロさんも読みますか?」

「どれ?」

野分は手際よくカバーを外して見せた。

「あっ、それ俺も読んだばかりなんだ、面白れーよな。今度お前の感想も聞かせて。」

「はい。」

野分はにこっと微笑んでまたよたよたと部屋に戻っていった。

アイツ、最近読書に目覚めたのか?

でも、野分と一緒に本の話ができるのは嬉しいし、楽しみだ。
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