純情エゴイスト〜のわヒロ編2〜
□新たな恋の始まり
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大学から帰ると、部屋の鍵が開いていた。
「ただいま。」
ドアを開けると、玄関にきちんと揃えられた大きなスニーカーが並んでいる。
「野分、来てるのか?」
声を掛けながら入って行くと、野分は問題集を広げたままスヤスヤと眠っていた。
あれから3日目…やっと顔を出したと思ったら気持ちよさそうに爆睡しやがって!俺がどれだけ待ったと思ってるんだ…
ドサッと音を立ててわざと乱暴に荷物を置くと、野分が目を覚ました。
「ヒロさん、お帰りなさい。すみません、眠ってました。」
野分はまだ眠たそうに目を擦っている。
「お前、3日も連絡よこさねーで何してたんだよ!」
「何って…いつも通りバイトです。連絡なんてしたことないじゃないですか?俺、ヒロさんの電話番号教えてもらってません。」
「えっ…そう…だっけ?」
「もしかして、ヒロさん俺が来るのを待っていてくれたんですか?」
野分は真黒な目を大きく見開いて、とても嬉しそうな顔をした。
「えっ!?べ…別に…俺はだな…」
不意打ちを食らってあたふたしていると、野分にぎゅっと抱きしめられてしまった。
「嬉しいです…」
やっぱり…こういうのには慣れそうにない。恥ずかしさに真っ赤になって固まっていると、野分の顔がゆっくりと近付いてきた。
キスされる!!目をギュッと閉じていると…
クスクスと笑い声が聞こえてきた。目を開けると野分が悪戯っぽい目でこっちを見つめている。
「な…なんだよ///」
「ヒロさんは可愛いです。」
そう言うと、いきなり唇を重ねてきた。ムカつくー!!
「おい!これから大検受けるヤツが何してんだよ!勉強するぞ!勉強!」
「はい♪」
咄嗟の照れ隠しでそう言ったのだけれど…いくら成績に問題ないからって野分は受験生だ。受験が終わるまではこういうのは控えねーとな…
野分が問題集を解いている間に論文を進めることにした。俺だって院試があるから恋愛どころではない。
パソコンに向かってみたもののキーを打つ手はすぐに止まってしまった。今までなら直ぐに論文に集中できたのに、今日はなんとなく野分を意識してしまう。
「ヒロさん、終わりました。」
「じゃあ、採点するからちょっと待ってて。」
問題集を取りあげて、マルをつけながら野分に聞いてみた。
「バイトは忙しいのか?」
「はい。時間は短くなったんですけど、工事現場のバイトがキツくて。」
「あまり無理すんなよ。あとさ、お前何処に住んでんの?」
「江東区です。」
「江東区?もっと近くかと思ってた。」
電車に乗れば1時間かからない距離だが、新聞配達の帰りに立ち寄れる距離じゃねーだろ…
バイトの合間にここまで通うのも大変そうだ…
「バイト先がこっちの方なので、行き帰りに寄ってるんです。」
だから通い猫なのか…
「ふ〜ん…で、次にバイトでこっちに来るのはいつなんだ?」
「あっ…俺の予定ヒロさんに教えてませんでしたね。気が付かなくてすみませんでした。」
「別にいーけど、いつ来るかくらいわかってた方がこっちもソワソワしなくて済むし…」
「ソワソワですか?」
「あーーーっ!!今のなし!俺は何も気にしてねーから///」
「はいはい。俺は何も聞いてません。えっとですね…ここの最寄り駅の近くのコンビニに深夜で週3回入っていて、工事現場のバイトもこの近くでやってます。あとは、3駅先の花屋でもバイトしてます。次に来れるのは金曜日の午後ですね。」
「そうか…」
「他には?」
「えっ?」
「俺に聞きたいことありませんか?」
いつの間にか野分は頬杖をついてにこにこしながら俺の顔を見つめている。なんか悔しい。これじゃ俺の方が野分にゾッコンみたいだ…
「べ…別に。ちょっと気になっただけだし///」
「すみません、ちょっと調子に乗ってしまいました。ヒロさんが俺に少しでも興味を持ってくれたと思うと嬉しくて。」
「あっ、そう…」
照れくさそうに頬を染めている野分にそっけなく返す。
そそくさと最後の問いにマルをつけて、マルで埋まった問題集を野分に突っ返した。
「お前は俺に質問とかねーのかよ。また全問正解しやがって、これじゃカテキョの必要ねーだろっ!」
「ヒロさんがいるから頑張れるんです。俺、ヒロさんからマルを貰いたくて一生懸命勉強しているんですよ。」
うっ///また直球かよ…そんなこと言われたらつい嬉しくなってしまう。緩みかけた頬を引き締めて厳しく怒鳴りつけた。
「バカ!そんな不純な動機で勉強してんじゃねーよ。これで受験に落ちたりしたら殺す!」
「じゃあ、ヒロさんを殺人犯にしないように頑張らないと…俺、責任重大ですね。」
そんなことを言いながら野分はいそいそと次の問題に取りかかった。