☆彡秋のエゴイスト2

□大丈夫
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Side 弘樹

野分が晩飯を外で食べたいと言うので駅前で待ち合わせをしているのだが・・・今夜もまたドタキャンか。

スマホの画面をいくら見つめても刻々と過ぎてゆく時刻が表示されているだけで、野分からの連絡はこない。

約束の時刻を2時間過ぎたところでベンチを立った。

弁当を買いにコンビニに入ったものの、あまり食欲がないのでお握りで済ませることにした。

さっさと帰って風呂入って寝よう。

人気のなくなった夜道をとぼとぼと歩きながら考える。

このところ野分とゆっくり話せていない。出掛けや帰宅時に顔を合わせることはあるけれど、数分でどちらかが出かける時刻になってしまう。

野分は俺に会いたがっていて、少しでも時間が空きそうだと連絡をくれるのだが、待ちぼうけをくらわされてばかりだ。日曜に休みが被ったと思ったら呼び出しが入って夜まで帰ってこなかったし。

今日はその穴埋めに晩飯を奢ってくれるつもりだったようなのだが、連絡なしのドタキャンで最悪のパターンだ。

そんなのはもう慣れっこだけれど、まったく寂しくないわけでもなく、こうして月明かりの下を一人で歩いているとなんだか切なくなってしまう。

だけど、仕事をしている時の野分は本当にカッコいいと思う。誠実で誰からも好かれる野分を俺は誇りに思っているし、人として尊敬している。

必死になって救護活動をしている野分の姿を想像すると、漢字変換されていないひらがなだらけの短いメールをもらうだけでも申し訳ない気分になってしまう。

俺のことなんて気にしてないで仕事に集中しろよ!って怒鳴りつけてやるのが正解なんだろうけど、ほんの少しでも俺のことを気にかけてくれていることを嬉しく思ってしまう自分はまだまだ未熟なのだろう。

今夜のように何も連絡がない時は、それだけ大変な状況にいるということで・・・

患者を全員助けられると言う保証はないし、疲労でミスをしたり、知識不足で落ち込むこともあるだろう。

それなのに、俺の前では愚痴や弱音を吐くこともなく、ドタキャンしたことを謝ってくるのだ。

俺は別に怒ってないし、約束破りを責めるつもりもない。むしろ、頑張ったなって褒めて、疲れを労ってやりたいのに野分は罪悪感に苛まれてしまう。

仕事が優先だっていくら突っぱねても、寂しい気持ちが顔に出てしまっているのだろうか?

文句をぶつけたり、我儘を言ったりした方が野分にとっては精神的に楽なのかもしれないが、俺はプライドが高いからそんな子供じみた態度は取りたくない。

でも、しょんぼり顔で謝られるのも嫌だし・・・う〜ん・・・

つーか、なんで俺が悩まなきゃならんのだ。

誘ってきたのも、ドタキャンしたのも野分だし、俺は気にしてないって言ってるのに勝手に罪悪感感じたり自信喪失したりするのも野分だ。

どう考えても野分が悪いのだが、しょぼくれた顔をされると俺が悪いような気になってしまう。

野分には振り回されてばかりでムカつくけど・・・それでも嫌いになるどころか、好きになるばかりで・・・

「さっさと患者助けて帰って来い!ボケカス!!」

転がっていた空き缶をゴミ箱めがけて思い切り蹴り飛ばした。





風呂上り、水をのんでいたらスマホが鳴った。野分からの電話だ。

「はい。」

『ヒロさん!今日はすみませんでした。もう、家ですよね?』

「流石にこんな時間まで待ってねーよ!」

『良かった。夜は冷えますからちゃんとお風呂入って風邪をひかないように気をつけてください。』

風呂入れとかお前にだけは言われたくないのだが…

「もう入った。お前待ってて風邪ひくとか間抜けな事態にはならないつもりだから安心しろ。」

『ご飯は…』

「ちゃんと食べた!お前は俺の保護者か!」

『あはは…すみません。約束を反故にしてばかりで俺、最悪ですよね。』

「急患だったんだろ?」

『はい。そっちは全員助かったんですけど…』

「なら最悪じゃねーじゃん。喜べよ。」

『それはそうなんですけど、ヒロさんに会えませんでした。』

悲しそうな声。しょぼくれた顔が目に浮かぶ。

「今夜も泊まりになりそうなのか?」

『いえ、もう少ししたら帰ります。だけど、また急患が来ないとも限らないので先に寝ちゃってください。これ以上、ヒロさんを無駄に待たせたくないです。』

野分を待っている時間が無駄だなんて思ったことはない。もうすぐ会えるとウキウキする気持ちと、来ないかもしれないと寂しく思う気持ちが入り混じって、俺はこんなにも野分のことが好きなんだと悔しいくらいに実感させられる。

いつも仕事や読書にかまけて、恋人を放置気味の自分としては、そんな時間を過ごすのも大切なことだと思っている。そんなこと、野分には言わねーけど。

「じゃあ、30分だけ待ってる。」

日付が変わるまであと30分だ。俺だって少しでもいいから野分に会いたい。

『シンデレラの魔法が解けるまでに帰らないとですね!』

「誰がシンデレラだ!」

『急いで帰りま…ごめんなさい!また急患みたいです!』

電話の向こうでバタバタと騒がしい音が聞こえてくる。もう切らないと…

「おやすみ。頑張れよ。」

「おやすみなさい。ヒロさんが好きです。」

俺も好きだ。会いたい…

喉元まで出かかた言葉を飲み込んで咄嗟に電話を切ってしまった。

失敗したかも。どうして素直に気持ちを伝えられないんだか。野分のヤツ、気にしてなきゃいいけど…
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