☆彡秋のエゴイスト2

□キスは禁止!
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キッチンで朝食の支度をしていたら、バタバタと廊下を走る音が近づいてきて・・・

「野分!」

「ヒロさん、おはようございま・・・うぐっ・・・」

頬に拳がのめり込んだ。

「昨晩あれだけ言ったのに、これは何だ!」

ヒロさんが指しているのは、Yシャツの襟元スレスレのところに刻まれたキスマーク。もちろんつけたのは俺だ。

「あー・・・見えちゃってますね。」

見えるところには絶対につけないようにと言われていたので、気をつけていたのだけれど失敗してしまったらしい。

「ごめんなさい。」

ぺこりと頭を下げたらまた殴られた。

「お前、暫くキスするの禁止だからな!」

「えーっ!!暫くっていつまでですか〜」

「俺がいいって言うまでだ!」

「そんな〜」

ヒロさんはプンプンしながら救急箱から絆創膏を取り出して洗面所に戻って行ってしまった。

ヒロさんの話では昼休みに、学会の準備を手伝ってもらった学生達に学食のランチを奢る約束をしているそうだ。

授業中以外は学生さんたちと砕けた会話をすることもあるらしく、上條先生の恋人に興味深々の子も多い。

あれこれと詮索されると厄介だというので、見えるところには絶対に痕を残さないという約束でキスを許してもらったのに俺としたことが〜

食卓にオムレツの乗ったお皿を並べ終えると、ヒロさんのもとに向かった。

「ヒロさん、ご飯できました。絆創膏ちゃんと貼れましたか?」

「貼れたけど、これじゃキスマーク隠してるってバレバレなんだが。」

「あはは・・・こんなところ普通は怪我しませんもんね。」

「笑い事じゃねーだろ!ボケカス!」

また殴られそうになったのでひょいっと避けた。

「本当にすみませんでした。ヒロさんが可愛すぎてつい夢中になってしまって。気をつけてはいたんですけど、ヒロさんが可愛くて、俺は可愛いヒロさんを見ると理性が飛んじゃって・・・えっと・・・」

気持ちを言葉にするのって難しい。どう伝えれば・・・

「つまり、俺が可愛いかった所為でこうなったと?」

「はい!つまり全部ヒロさんの所為で・・・あわわっ、間違えました!全部俺が悪いですっ!ごめんなさい!」

ヒロさんは呆れ顔で頬をピクピクさせている。

「ヒロさんが好きです。だからもう機嫌を直してください。怒ったまま出かけちゃ嫌です。」

「心配するな。美味い飯食べたら直るから、しょぼくれた顔するのはやめろ。」

仕方なさそうに頭をポンポンしてくれた。ヒロさんは優しい。

「はい。コーヒー淹れてきますね。朝ご飯、温かいうちに食べましょう。」

「ああ、直ぐ行く。」




ペアのマグカップにコーヒーを淹れて待っていると、ヒロさんがやってきた。

「「いただきます。」」

ヒロさんはカップを手に取るとふうふうしてから一口啜った。

「そう言えば、今朝は早起きでしたね。身体大丈夫ですか?」

一緒に寝た翌朝は遅刻ギリギリまで寝ていることが多いのに、俺が起こしに行く前に身支度を済ませるなんて珍しい。

どこか痛いのかなぁ?ヒロさんに負担をかけすぎちゃったかも。

「虫の知らせっつーか、なんか嫌な予感がして目が覚めたんだ。寝坊してたら気づかずに出勤してたかも。」

「ヒロさんの嫌な予感はよく当たりますもんね。」

「大体がお前か秋彦絡みだけどな。」

ヒロさんが言うには俺はヒロさんが嫌がることばかりしているらしい。でも、嫌だと言っているのは口先だけで本当は・・・

だって、本当に嫌なら殴ってでも止めさせるって言ってたし。

「なにニヤニヤしてんだよ?」

「ヒロさんは可愛いな〜と思うと自然とこの顔になっちゃうんです。」

「朝から何度可愛いって言えば気が済むんだ。俺のこと『可愛い』って言うのも禁止にする?」

「ダメです。それを止められると夫婦の会話がなくなってしまいます!」

「誰と誰が夫婦だ。つーか、俺を表す言葉は『可愛い』以外ねーのかよ。語彙力なさ過ぎだろ。」

不満を漏らしながらもクスクスと笑っている。幸せそうな笑顔・・・

「いいんです。ヒロさんの好きなところは山ほどありますけど、全部ひっくるめて一言で表すと『可愛い』になっちゃうんです。」

「一応言っておくが俺は『可愛い』が褒め言葉だとは認めてねーからな。」

褒めているわけじゃないんです。素直な気持ちを口にだしているだけなのに、ヒロさんは直ぐに捻くれてとらえちゃうんだから。

「は〜〜〜〜っ・・・」

深〜い溜息をついたら

「幸せが逃げるから止めろ!ボケ!」

脛に蹴りが飛んできて、持っていたカップを落としそうになってしまった。

「危なっ・・・」

「ヒロさん?」

「割れるかと思った〜気をつけてくれよな。」

「ヒロさんが急に蹴るのがいけないんですよ。」

「溜息なんかつくお前が悪い。」

クリスマスにヒロさんにプレゼントしたペアのカップ。最初は抵抗があったみたいだけど、すごく大切に使ってくれている。

「あの〜もしも俺のカップが割れちゃったらどうします?」

「お前のカップ?」

「はい。」

「なに勘違いしてんだよ?それは俺がプレゼントに貰ったもんだから両方とも俺の物だ。お前には貸してるだけなんだけど。」

はっ!!確かに・・・

「割ったら同じのもう一回買いに行って反省文添えて返すように!つーか、割るな!割ったら殺す!」

あはは・・・割れなくて良かった〜

俺がヒロさんのために選んだペアカップ、こんなに大事にしてくれて・・・嬉しいです。
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