純情エゴイスト〜のわヒロ編〜
□学祭シンデレラ♪
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扉を開くとそこは竹林だった。
両手に笹を持ったパンダが円らな瞳で俺の方を見つめている。
そう、ここは中国の竹林…
いや…違う。ここは俺の研究室だ。
「はぁ〜」
思わずため息が漏れる。
これは俺が担当しているゼミの学生達が置いていったパンダカフェのセット。
今週末に開催される学園祭までの間、置き場所を提供する羽目になってしまったのだ。
初めはもちろん断ったのだが、「ゼミの親睦を深めるために学園祭に参加したい」「勉強には普段以上に力を入れる」という学生達の直談判に負けてしまった。
まあ自分の担当ゼミだし、このくらい協力してやってもいいとは思うのだが、竹林でパンダに囲まれながら仕事をしなければならないこちらの身にもなって欲しい。
昼間は時間の空いている学生がひっきりなしにやってくるし、今日はカフェで出すメニューの試食にまで付き合わされた。
そんな訳でこっちは思うように仕事が捗らず、残業続きだ。
山積みになった資料から目的のものを探しつつ、論文をまとめる。
ん!?あの本、どこやったっけ?
机周りを探してみたが目的の本が見あたらない。記憶の糸を手繰り寄せると…
やベー、家に置いてきた…
家に帰ってやるか?いや、こっちの方が資料が揃ってるし、今日中にこの章を終わらせてしまいたい。
野分もう帰ってるかなぁ?
野分が家にいることを祈りつつ家の電話番号をダイヤルすると、呼び出し音の後に受話器を外す音が聞こえた。
「野分?よかったー。」
『ヒロさん?よかったーって何かあったんですか?』
「お前、今時間あるか?」
『はい。丁度バイトから帰ったところです。病院も呼び出しがなければ明日の朝まで非番です。』
「そうか♪悪いんだけど、俺の部屋にある本、持ってきてくれないか?」
『いいですよ。どの本ですか?』
本の名前を伝えると、野分は俺の部屋に探しに行った。
『ありました。大学の門まで持って行けばいいですか?』
「いや、正門はもう閉まってるから、裏門から入って研究室まで来られるか?」
『大丈夫です!俺、一度行った場所はちゃんと覚えてるんで♪ヒロさんの研究室に招待していただけるなんて嬉しいです!』
「招待って…届けてもらってそのまま帰すのもなんだし、この時間ならほとんど人はいないからゆっくりコーヒーでも飲んでけ。」
『はい!すぐに行きますから待っていてください。』
受話器を置いてもまだ野分の嬉しそうな声が耳に残っている。
やっぱり、あいつバカだ。パシリに使われてるのに何がそんなに嬉しいんだか。
とは言っても、正直俺も嬉しい。たまには忘れ物もいいものだな…
そんなことを考えながら、電気ポットのスイッチを入れた。