純情エゴイスト〜のわヒロ編〜

□ハロウィン小夜曲
1ページ/2ページ


「これで全部か…」

宮城教授に頼まれた資料を揃えて、研究室に向かう。

まったくあの人は…自分の論文資料くらい自分で揃えられねーのかよ。

学会が近いというのに宮城教授は相変わらずマイペースで、今回も締め切り直前でバタバタしそうな雰囲気だ。

(コンコン)「宮城教授、上條です。資料持ってきました。」

研究室の扉を開けると、教授はゼミの学生達に囲まれていた。

「上條、いつも悪いなー。これお前にもやるよ。」

そう言って教授は俺に飴玉を差し出してきた。

これって…

「結構です。これ、忍君のお土産のひつじキャンデーでしょ?」

それは、前に教授に押し付けられたオーストラリア土産の激マズキャンデーだった。

「こういうときは、素直に受け取っておくもんだぞ!」

見ると、学生達にもひつじキャンデーを配っていたようだ。『三橋大で集団食中毒発生…』そんな新聞記事が頭をよぎる。

「さあ、資料も揃ったし仕事仕事♪菓子やったんだからお前達はとっとと出て行ってくれ。」

「宮城教授、キャンデーありがとうございました♪」

「それ返品不可だから、最後までちゃんと食べろよ!」

そんなことを言いながら、教授は学生達を廊下に追い出した。

「あいつら何しに来たんですか?」

教授に尋ねると

「今日はハロウィンだろ?あいつら、『トリック・オア・トリート』って押し掛けてきたんだよ。」

「ああ。そう言えば去年も教授の所に学生達が来てましたね。」

「去年はせんべいだったかな?上條のところには来ないのか?
あ、鬼の上條にいたずらしようなんていう度胸のあるやつなんていないかー」

「宮城教授…」

「はいはい。眉間に皺寄せない!」

「俺も自分の仕事がありますので失礼します。論文、ちゃんと進めてくださいよ!」

そう言い残すと、俺は宮城教授の研究室を後にした。

宮城教授は仕事ができるわりに楽天的で親しみやすい印象があるらしく学生にも人気がある。

俺も少しは見習った方がいいのだろうか?…いや、止めておこう。俺の場合は学生に舐められるのがオチだ。

そんなことを考えながら自分の部屋に戻り、パソコンに向かった。



(コンコン)「弘樹入るぞ!」

「どうぞ。」

論文を書いていると、例のごとく秋彦が暇つぶしにやってきた。

同居人の授業が終わるまでここで過ごすつもりらしい。

「トリック・オア・トリート!」

「え!?」

「トリック・オア・トリート!」

秋彦は俺に向かって手を差し出している。

「急に何なんだよ!お前こういうイベント興味ねーんじゃなかったのか?」

「たまには、イベントごとに乗っかってみようと思って。そういう訳だから、トリック・オア・トリート!」

「ねーよ!生憎、俺は菓子食べながら仕事をする習慣はないんでな。」

「そうか。それじゃあ…」

(ポチッ)

ポチッって…

「何しやがるんだ!テメー!いきなりパソコンの電源切るヤツがあるかー!!」

「何って、ちょっとしたかわいいいたずらだ。」

平然と答える秋彦…

俺の論文…ちょこちょこ保存はしてはいるが…鬼だコイツ。

気分転換にコーヒーでも飲もう。そう思ってコーヒーを淹れに立つと、

「おかまいなく。」

本を片手にソファーに腰を下しながら秋彦が言う。

「テメーのじゃねーよ!俺の研究室はカフェじゃねー!」

「そんなに怒鳴るな。それよりお前、草間君に何か買って行った方がいいぞ。」

「野分に?何で?」

誕生日じゃねーし、何かの記念日だったか?っていうかそんなこと秋彦が知ってる訳ねーか。

「野分君にいたずらして欲しいなら話は別だが…」

「///」

「ああ、して欲しいのか。」

「んなわけあるかー!そういうお前は同居人に何か買ったのかよ。」

「俺はいたずら希望。でも、帰りにあいつと一緒に抹茶クリーム白玉あんみつタイ焼きを買って帰ろうかと思ってる。」

「なんだそれは…はい、コーヒーはいったぞ。」

秋彦にコーヒーを差し出すと

「悪いな。そうだ、コーヒー豆持ってこようと思ったんだが、家に忘れてきた。今度持ってくる。」

はいはい。悪かったなー安物のコーヒーで。

それにしても、野分に何か買って帰った方がいいのだろうか?

毎年野分は仕事でいなかったからハロウィンはやったことがないけれど、今日は帰宅するとさっき野分からメールが来ていた。

病院でハロウィンに仮装して子供達にお菓子を配るイベントをしたと前に野分から聞いたことがあったっけ…

たまにはケーキでも買って帰るか…
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ