純情エゴイスト〜のわヒロ編〜

□野分で学ぶ日本文学♪
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<1時間目:紫式部&夏目漱石 講師:宮城教授>


今日の上條はいつもに増して機嫌が悪い。折角の美形が眉間の皺で台無しだ。

「上條、どうした?彼氏と喧嘩でもしたか?」

「別に喧嘩なんかしてませんよ。」

「あー、喧嘩する時間も無いくらい彼氏が忙しいとか?もう何日会ってないんだ?」

「放っておいてください!!」

そんなに怒らなくても…

「はぁ…」

あ、溜息ついてる。こいつはすぐに顔や態度に出るから面白い。

トントン 「どうぞ」「失礼します」

ドアをノックする音と、上條の返事に続いて、俺のゼミの学生が入ってきた。

「宮城教授、やっぱりここでしたか。卒論の指導中に抜けださないでくださいよ。」

「悪い悪い。この時間は上條とスキンシップを取る時間と決めてるんだ♪」

『宮城教授!』あ…上條とハモった。

「はいはい…で、何か用か?」

「ここ、確認なんですが、野分って36歳でしたよね?」学生が資料を指さしながら確認を促すと

「野分は26だ…」学生の言葉に反応したのか上條が呟いた。

「上條先生、何かおっしゃいました?」学生がちょっとビックリして尋ねる。

「あー、上條はちょっと疲れてるんだ。36歳で大丈夫。すぐに戻るから続きやっといて。」

「はいはい、すぐに戻ってきてくださいよ。」

部屋から出て行く学生を見送って、俺は上條を後ろから抱きしめた。

「光源氏の年齢の話してたんだけど…26って何?」

上條の頬が赤く染まる。いつもなら怒って触れ
させてくれないのに…抱きしめられているのに気づいていないのか?

「源氏物語の二十八帖ですよね…すみません。ちょっとぼーっとしてて」

草間君が明らかに不足している。上條の柔らかい髪をそっと撫でてみたが怒る気配がないので、調子に乗ってうなじにキスしてみた。

「上條お前、相変わらず無防備すぎ。」

耳元で囁くと、我に返った上條に思いっきり突き飛ばされてしまった。

続けて本が飛んできたので慌ててよける。

「俺はちょっと疲れてるだけで、野分とは何の関係もなくて、1週間会ってないくらいで寂しいとか全然思ってませんし…」

「お…落ち着け、上條」

「俺をからかって何が楽しいんですか〜」

「だから落ち着けってー ハードカバー投げるな〜」

完全避難体制に入ろうとしたとき、携帯が鳴った。

上條が携帯を確認している。草間君からか?

なになに?後ろからこっそり携帯の画面を覗き込む。

『ひろさんすみません。あとできがえおねがいします』改行も漢字変換もないメール…

「…」

無言で画面を見つめる上條にかけてやる言葉が見つからない。

何となくいたたまれなくなって下を向くと、さっき上條が投げようとしていた本が足元に落ちていた。

夏目漱石の『野分』。

無意識に投げた本がこれか…俺は本を拾い上げると、タイトルを下に向けて上條の机に置いた。

「今日は定時に上がって、早く彼氏のところに行ってやれ。」

ポンポンと上條の肩を叩いて研究室を後にした。



『釣鐘のうなるばかりに野分かな 夏目漱石』
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