純情エゴイスト〜のわヒロ編〜

□雲が晴れたら
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「くさませんせ〜い かたぐるまして〜」

「はいはい、一人づつ順番にね。」

ここは小児病棟のプレイルーム。夕食後の回診が終わった後しばらくの間、子供達とここで過ごすのが俺の日課になっている。

肩車をして遊んでいると、津森先輩が部屋の前を通り過ぎて行くのが見えた。

いつもならここに入ってきて子供たちの様子を見て行くのに、今日はまっすぐに歩いて行ってしまった。

少し気になったので、部屋から顔を出して津森先輩の歩いて行った方を覗くと、何やらご機嫌で足取りも軽い。

「先輩、どこに行かれるんですか?」

俺が声をかけると一瞬ドキッとしたような様子を見せたが、すぐに振り返って

「ニコチン切れ。煙草買いに行ってくる。」

何気ない様子でスタスタと歩いて行ってしまった。

(なんだか、怪しい…)

「くさませんせ〜つぎはボクのばんだよ〜」

子供達にせがまれてプレイルームに戻ったが、なんとなく胸騒ぎがして落ち着かない。

先輩を追いかけようかとも考えたが、この部屋の窓から病院の出入口が見えるのをふと思い出したので、窓からそっと下を見ると丁度先輩が出てくるのが見えた。

先輩は道路の方には行かずに、病棟に沿って庭の方に向かって行った。

木の陰になってしまってよく見えないがベンチで誰かが待っているようだ。

先輩は片手を振りながらその人のもとに歩いて行った。

待ち合わせの相手も腰をあげて先輩の方の向かってきた。

(ヒロさん?)先輩を待っていたのはヒロさんだった。

ヒロさんは先輩と何か話しているようなのだが、木が邪魔でよく見えない。

(いつもは先輩と顔を合わせるのを嫌がるのに、今日はどうして?)頭の中が疑問符でいっぱいになる。

(着替えはまだあるし、今日来るとも言っていなかったのに…)

下に降りて行こうか迷っていると、ヒロさんがスタスタと立ち去って行くのが見えた。

(また先輩にからかわれたのかなぁ?)

いつも通りかと思ったのもつかの間、こちらの方に歩いてきたヒロさんの表情に俺は息を飲んだ。

頬にほんのり赤みがさしていて、嬉しそうに微笑んでいる。

しかも、病院には入らずにそのまま道路の方に向かって行ってしまった。

先輩はヒロさんに向かってニコニコしながら手を振っている。

俺は慌ててプレイルームを飛び出すと、1階に向かった。

外に出ようとしたところで先輩とぶつかった。

「野分、どうしたんだ?急患?」

「先輩!!今、ヒロさんと何話されてたんですか?」

「あーーー、見られてたのか…」

「先輩、正直に言ってください。」

「悪い。上條さんに口止めされてるから今は話せない。」

「え!?ヒロさんに…」先輩は気まずそうに眼を反らしてしまった。

「ほら、病棟に戻るぞ。」肩を押されて先輩について行く。

(ヒロさん、どうして?)
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