☆彡パロディの世界

□ドキドキ演技指導
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テレビの画面に流れては消えてゆくエンドロール…最後に制作会社の名前が表示されてED終了。CMに入った所でスイッチを切った。

見ていたのは俺がレギュラーを務めている冒険ファンタジーアニメだ。

俺の担当キャラは主人公とは別ルートを辿っていて、ここ数カ月出番がないのだが、ストーリーの進行具合の把握と、演技の勉強のために毎回視聴するようにしている。

俺も最近では中堅声優の枠に入りつつあるが、ベテランの先輩方の演技力には未だに圧倒されてばかりだ。

今回も面白かったけど、俺の出番は当分回ってきそうにねーな…

長編で登場人物が多い作品だと、メインキャラクターであっても一年以上出番がない場合もある。いつ仕事が入っても大丈夫なように感覚を忘れないようにしておかないと。

そんなことを考えつつ、買っておいたコンビニ弁当を温めようと立ち上がったところで電話が鳴った。

「はい。上條です。」

『お疲れ様でーす!『純情Swimmer☆』の出演が決まりました〜♪』

ハイテンションな女性マネージャーの声が響く。新作の出演が決まった時はいつもこんな調子だ。

「わかりました。林役ですよね?」

『純情Swimmer☆』は大学の競泳部を舞台にしたBLアニメだ。

どこが良いのかわからないが、俺はいわゆる『受け』と呼ばれる役を任されることが多く、ここ数年は『受けが上手い声優』ランキングの上位に名を連ねている。

仕事があるのはありがたいことなのだけれど、BLでしかも受けに選ばれるのは正直複雑な気分だ。

今回のオーディションでは受け役の林と攻め役の伊東の両方で受けたのだが、『攻め』に選ばれたことは一度もないし、決まったのなら林役だろう。

『違います。伊東の方ですよ。』

「嘘!?役名間違えてませんか?」

マネージャーはおっちょこちょいなところがあるからな…

『いえ、伊東で間違いないです。林役にはうちの新人が抜擢されたのでアドバイスしてあげてくださいね。明日、台本渡しますので詳しくはその時に。』

「あー…はい。」

『じゃあ、よろしくお願いします。失礼しまーす!』

伊東役…林じゃなくて伊東…

「やったー!!初めての攻め役ゲット!」

予想外の告知に思わず叫び声をあげてしまった。

飯なんか食ってる場合じゃない!オーディションの前に買っておいた原作コミックスを取ってくると、早速読み返しにかかった。

受け専門だなんて思わせない。絶対に上手く演じ切って見せる!

スゲーわくわくしてきた。収録が楽しみだ。




事務所に行くと、カウンターの前にマネージャーの姿を見つけた。

他の声優と話している最中のようだ。うちの事務所では一人のマネージャーが複数の声優を担当している。

それはそうと、マネージャーと話してるヤツ、デカっ…

185は優に越えている。小柄なマネージャーと視線を合わせようとしているのか、膝を曲げて無理な体勢を取っている後ろ姿が滑稽でクスリと笑いが洩れた。

終るまで待っていようと入り口付近のソファーに腰を下ろそうとしたら、名を呼ばれた。

「上條さん!」

手招きをされてマネージャの所に行くと

「丁度良かった。昨日話した林役の新人君、紹介しますね!」

「草間野分です。よろしくお願いします!!」

元気一杯だな…

真っ黒な瞳がキラキラと輝いていて、爽やかな笑顔が眩しい。役がもらえたことが嬉しくてたまらないのだろう。俺も新人の頃はこんな感じだったのだろうか?

「上條弘樹だ。よろしく。」

「これ、一話目の台本です。二人共頑張ってくださいね♪」

「はい。」

台本を受け取って今日はこれで終わりだ。早く帰って早速読み込もう。

真新しい台本をバッグにしまってウキウキしながら帰宅しようとしていると

「上條さん!」

草間が声をかけてきた。

「なに?」

「あのっ、この後お時間ありますか?」

「ああ、今日は仕事入ってないから時間はあるが…台本読みたいからまたにしてくれないか?」

「あー…そうですよね。すみません。お時間がある時でいいので、収録が始まる前に練習に付き合っていただけませんか?俺、こういう仕事初めてでどう演じていいのかよくわからなくて。」

そうだった…普通の恋愛アニメなら実経験を元に演じることもできるが、BLとなると勝手が違う。俺も初めてやった時はガチガチに緊張してNG出しまくったっけ。

俺の時は幸いなことに相手役がベテランの大先輩で丁寧に演技指導してくれたんだ。作品が終ってからも飲みに誘って貰ったりして世話になっている。

今度は俺が新人に指導する番なのか〜俺も先輩みたいに後輩から尊敬される存在にならねーとな。

「明日、朝一でドラマCDの収録があるんだが、その後は夕方まで空いてるから、その時間でよければ会えるぞ。」

「大丈夫です!では、12時に二人分のお弁当持参で伺いますね。ご住所、教えてもらってもいいですか?」

おいおい、いきなりうちに来るのか!?弁当ってなんだ〜!?

「えっと…なんでうちなんだ?昼飯くらい奢ってやるよ。」

「ご指導していただく上に奢っていただくなんてできません!俺、料理するの好きですし、何かお礼がしたいんです。それに、外で会ったら読み合わせができないじゃないですか。」

もっともな理由に素直に頷いた。

「そうだな。住所書くからちょっと待ってろ。」

メモ帳に住所と連絡先を書いて草間に渡した。

「ありがとうございます。後で俺の連絡先もメールしますね。若輩者ですがご指導よろしくお願いしますっ!!」

「おう。俺も攻め役は初めてだから…一緒に頑張ろうな。」

「はいっ!」

礼儀正しくて、仕事への意欲も感じられる。コイツとなら上手くやっていけそうだ。
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