☆彡パロディの世界

□スクール☆ラブ
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「上條せんぱーい!OBの皆さんから差入れが届きましたよー!」

体育館に甲高い声が響く。

「静かに!俺達が行くから。上條先輩、続けてください!」

中一の新入部員を制して、高一の後輩達が対応に向かった。

ここは中高一貫の都立男子高。

俺の所属する剣道部は今週末に個人戦、二週間後には団体戦の東京都予選を控えている。

うちの剣道部はインターハイの常連で、代々好成績を収めている。予選会ごときで負けるわけにはいかない。

竹刀をギュッと握りしめて、剣先に集中する。

「メーン!」

相手の面に力いっぱい打ち込んで竹刀を下ろした。

「痛ってー…上條、力入れすぎ!」

練習相手をしていた宮城先生が面を外して頭を押さえている。

「すみません!大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねーよ!痛たた…プレッシャー感じてるのはわかるけど、お前力入れ過ぎ!他の部員、怖がってんじゃねーか。」

確かに…現に今も、練習に付き合ってくれるヤツがいなくて顧問相手に練習試合をしている始末だ。

これじゃ部長失格だな…

この春、高三の先輩が引退して俺が部長になったわけだが…責任感の強い性格が災いして大変な状況に陥っている。

4月は新入部員の勧誘と指導、5月は新人戦の練習に付き合い、大会目前だというのに自分の練習が殆どできていない。

意地張らないで他の奴らに任せておけば良かった…

「先生、もう一本お願いします!」

「ゲッ…まだやるのかよ…」

うんざりした様子で面を被り直す宮城先生。愚痴を言いながらも気を抜かずに相手をしてくれるからありがたい。

小手を調整して竹刀を握り直していると、バスケットコートの方から賑やかな声が聞こえてきた。

ここ第二体育館はステージ側半分が剣道部、もう半分がバスケ部の練習場になっている。

バスケ部は公式戦に出場できる人数にも満たない弱小部だったのだが、今年度は新入部員が集まり大会への出場意欲を燃やしている。

どうやら紅白戦が始まったようだ。俺も頑張らねーと…そう思った矢先

ピーッという笛の音と歓声が湧きあがった。開始早々ポイントを取ったのは…またアイツか…

長身で真黒な髪と目をした新入部員が先輩部員達に向かって笑顔でペコリと頭を下げている。

4月に入部して以来、バスケ部の人気者。群を抜いて上手いのに、それを鼻にかけることもなく、礼儀正しくて笑顔を絶やさない。

人懐っこくて、天然なところもあってバスケ部のマスコット的な存在になっている。

無愛想で、後輩に怖れられている俺とは正反対だ。なのに何故だか気になるんだよな…

「かみじょ〜!まだ〜?」

「あっ…はい!お願いします!!」

なにぼんやり見てんだ!自分!!

頭をブンブンと振って雑念を追い払い、練習に臨む。今は予選会のことだけを考えねば。

姿勢を正して礼を交わし、相手と対峙する。

肩に力が入り過ぎてる。落ち着いて…集中しろ。

竹刀を僅かに振り上げた時

(ポロン…ポロン♪ポロロン♪…ピ〜ン!!)

調子外れな音が体育館に鳴り響き、驚いて竹刀を落しそうになった。

「隙あり!」

パシーン…頭上で竹刀が跳ねた音が鳴り響く。

「アハハ…また宇佐見にやられたみたいだな。そんなに気になるなら耳栓でもすれば?」

クソー…

「すみません、ちょっと抗議してきます!」

笑っている宮城先生を尻目に、ステージに上った。

「あーきーひーこー!テメーの所為で一本取られたじゃねーか!」

ピアノに向かっている幼馴染に怒鳴りつける。

「酷いいいがかりだな。真面目に練習してるだけなのに、ちょっと間違えたくらいで怒るな。」

「練習なら音楽室でやれって言ってんだろ!」

「他の楽器の音に交るとピアノは弱いから聞き取りにくいんだ。ここなら弘樹もいるし。」

「俺に頼るな!」

「それに…」

秋彦の視線の先にいるのはバスケ部の副部長。高橋孝浩…

宇佐見秋彦は向かいの家に住む幼馴染。そして…俺の片思い中の相手でもある。

吹奏楽部でクラリネットを担当しているのだが、次の定期演奏会ではピアノを弾くことになってしまったらしい。

俺がピアノ経験者なのを良いことにあれこれと聞きに来る。弾けるヤツがいないのならそんな曲選ばなければいいのに。

「兎に角、俺は今、大会前で切羽詰まってんだ!気を散らすような真似は控えてくれ。」

「お前が弾いてくれれば即解決なんだが。」

「そんな暇ねーよ!ほら、さっき間違えたとこ、この音だから。指は4番使って…」

「わかった。お前が居てくれて助かるよ。ありがとう。」

素直に礼を言われて心臓がドクンと跳ねる。

「べ…別にお前のためとかじゃねーから///また変な音出されたらこっちが迷惑なんだよ!」

憎まれ口をたたきながらステージから飛び降りた。

ドキドキと高鳴る鼓動を必死で抑える。俺の気持ちも知らねーで…秋彦のバカっ!

気を落ちつけようとドリンクをがぶ飲みしていると

(カシャッ…カシャカシャッ)

今度はシャッター音が始まった…

「津森先輩!俺を被写体にしないでくださいって何度言ったらわかるんですか?っていうか、いい加減引退してくださいよ。」

写真部の津森先輩は暇があると剣道部にやってきて写真を撮っている。

「文化部はのんびりでいいんだよ。受験勉強の息抜きにもなるし。それに、上條君はうちの大事な資金源だから♪」

「人の写真を影で売り払うのはやめてください。」

「そうやって怒った顔がまたそそるんだよな〜♪」

何を言ってもこの調子で軽く流されてしまうから無視するようにしているのだが…流石にムカつく!

ワナワナと肩を震わせる俺を見て、先輩はクスッと笑った。

「はいはい。次の練習試合撮ったら、あっちに行くよ。バスケ部の新入生の写真撮ってきてくれって依頼が多くてさ、この分だと上條君のNo1の座も危ないんじゃないかな〜」

No1って…俺はホストか…男にモテても嬉しくねーし!!

「中一に負けるとか、プライドが許さないんじゃねーの?」

「中一!?アイツ、高一じゃないんですか!?」

デカイから高校から入学してきたヤツだとばかり…

「草間野分。ピッカピカの中学一年生♪負けたくないなら、その胴衣も脱いでみますか?上條部長♪」

「誰が脱ぐか!この変態!」

ペットボトルを投げつけると津森先輩はヒョイッと避けて、何事も無かったかのようにレンズを磨きだした。

まったく、どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって…こうなったら何が何でも勝ち抜いてやる!!

メラメラと闘志を燃やしているところに

ピロ〜ン♪

調子外れのピアノが響いた…
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