☆彡ミニマムへの扉

□氷上のラブレッスン?
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「あ、ヒロさん、お帰りなさい!」

「ただいま。」

野分も帰ってきたばかりなのだろう。

椅子に掛けられたコートとキッチンに置かれたエコバッグを見て、あと一歩早ければ一緒に帰れたかもしれないのに…なんて、ちょっとだけ残念な気分になってしまう。

野分はエコバッグから食材を取り出してせっせと冷蔵庫に移している。

「晩ご飯、すぐにできますのでちょっとだけ待っていてくださいね。」

「ああ、ゆっくりでいいぞ。」

ネクタイを緩めながらリビングの方に行こうとしたところで、テーブルの隅に何やらチケットのような紙が置かれているのに気づいた。

「これ、なんだ?」

手に取って見ると、それはスケートリンクの割引券だった。あまり気にかけたことはなかったが、確か駅の向こう側にそんな施設があったような…

「ああ、それ魚屋さんのご主人に貰ったんです。商店街でお得意さんに配ってるとか言ってました。」

「ふーん。」

野分のヤツ、よくこういうの貰ってくるよな。

「折角いただいたんですけど、俺、休みが不定期ですし、アイススケートなんてやったことがないのでどうしようかと思って。ヒロさんの教え子さんとかで行く人がいたらお譲りしますよ。」

「うーん…どうだろうな。」

大学生なら遊びで行ったりはするんだろうけど、特に趣味でやっているとか得意だというヤツには心当たりがない。

「あ、ヒロさんはスケートやったことありますか?」

「あるよ。」

初めて滑ったのは小学5年の時に学校で行ったスケート教室だったっけ…




今日はスケート教室。小学部では毎年この時期に5・6年生を対象としたスケート教室が開催されている。

スポーツは得意だけど、アイススケートは初めてだ。基本から教えて貰おうと初心者向けのコースを選んだ。

秋彦は…上級者向けの列に並んでいる。ちょっと悔しいけれど仕方ないか。

予めサイズを指定しておいたスケート靴が配られて、インストラクターのお姉さんが履き方を説明してくれた。ちゃんと聞いていたはずなんだけと…

いざ履いてみたら紐のかけ方がよくわからない。この金具に上から下に引っ掛けるんだっけ?

首を傾げていると秋彦がやってきた。

「ちゃんと履けたか?」

「んー…これでいいのかな?」

「ここ、ちゃんと引っかかってないし、紐の先もこんなに伸ばしてたら突っかかって転ぶぞ。お前不器用だから見に来てよかった。」

「不器用で悪かったな!」

秋彦はクスッと笑うとしゃがんで紐を結び直してくれた。ドキドキする…落ち着け、俺の心臓…

「これでよし!自由時間になったらまた来る。」

「うん。ありがと///」

秋彦が結んでくれた紐を見てちょっとだけ頬がゆるんだ。他のヤツにはこんなことしないのに、俺にだけ…

秋彦への恋心を自覚して数週間。友達以上に見られていないということはわかっているけど、それでも嬉しい。

細長い歯のついたシューズは思った以上に歩きにくくて躓きそうになりなら集合場所に向かった。

リンクへの入り口付近には大きな籠が置かれていてヘルメットが入っている。自由に使用していいようだ。

転んで頭を打ったりしたら大変だから借りていこうかな…と思ったけれど、同じ初心者コースでもヘルメットを被っている生徒はほとんどいない。

どうしようかと迷っていると、また秋彦がやってきた。

「帽子持ってきたんだけど使う?」

「お前は?」

「俺は無くても平気だから。お前、寒がりだし、こういうの似合うと思う。」

そんなことを言いながら、秋彦は持っていたニット帽を被せてくれた。

「うん。やっぱりお前の方が似あうよ。」

頭をポンポンされて、蒸気が噴出しそうになる。コイツの優しさは…心臓に悪い。

「色々ありがとな。俺は大丈夫だから、お前も早く集合場所に行けよ。上級者コースの先生なんか恐そうだし。」

俺の所為で遅れて怒られたりなんかしたら申し訳ない。

「そうする。練習、がんばれよ。」

「うん。」

自由時間までに少しは滑れるようになってやる!
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