純情エゴイスト〜のわヒロ編7〜
□結婚式を挙げるなら…
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リビングで本を読んでいたら、野分が帰って来た。
「ただいまです。」
「お帰り。早かったな。」
まだ8時を少し過ぎたばかり。帰宅予定にはなっていたけれど、残業で遅くなったり、帰れなくなったりすることも想定していたから、なんだか不意を突かれた気分だ。
「早いですか?定時に終わらなくて残ってたんですけど…」
「いつもはもっと遅いだろ。」
お前の定時は一体何時なんだ?
「そう言えばそうですね。俺も少しは早く仕事がこなせるようになってきたのかな?ヒロさん、褒めてください。」
「自主残業しなくて済むようになったら褒めてやるよ。」
「あはは…頑張ります。」
つーか、帰る時連絡くらい寄越せって。早く帰って来るってわかってたら晩飯食べないで待ってたのに。
文句を言ってやりたいところだが、職業柄それは無理だとわかっているから何も言えない。連絡した後で急患が来たりなんかしたら、俺のこと気にしてヘマするかもしれねーし。
「晩ご飯、俺の分もありますか?」
「味噌汁は作ったけど、おかずは作り置きを適当に消化した。飯は明日の朝の分もまとめて炊いたからいっぱいあるぞ。」
「わかりました。ヒロさんの手作りお味噌汁が食べられるなんて、早く帰ると良いことがあるんですね♪」
野分はにこにこしながら荷物を置くと、手を洗いに洗面所に入っていった。
「お風呂はまだなんですね。後で一緒に入りましょう!」
洗面所から野分の声が響く。
「大声でバカなこと言ってんじゃねーよ!」
前は速攻で却下できたのに…野分のバカにはほったらかしにされっぱなしだから、嬉しい気持ちが勝ってしまう。俺はこんな人間じゃないはずなのに。野分のボケカス!!
緩みそうになる頬を引き締めてムスッとしながら本に目を通していると、野分が戻って来た。キッチンに行って、味噌汁の鍋を温めている。
「ヒロさん、明日、買い物に付き合っていただけませんか?」
「買い物?仕事終わってからなら大丈夫だけど、遅くまで開いてる店?」
「駅前のデパートなら9時くらいまでやってますよね?」
「ああ。夏服でも買うのか?」
野分は鍋をかき混ぜながら、ちょっと困ったように話し始めた。
「先週、結婚式を挙げた友人がいるんですけど、仕事の都合で式にも二次会にも出席できなかったので、何かお祝いを贈ろうと思って。どんなものが良いか一緒に探してくれると助かります。」
「わかった。但し、全部俺任せにすんなよ!お前も候補考えとけ。」
「ですよね。俺、こういうの苦手なんですけど、考えてみます。」
一瞬、クリスマスプレゼントに貰ったペアのマグカップが脳裏に浮かんだ。大きなハートマークがプリントされていて、二つ並べると綺麗なハートが出来上がる。
一人で買いに行かせたりしたらあの手の代物を選びそうで恐ろしい…
野分は味噌汁をお椀に盛って食卓に着いた。
「いただきます♪」
嬉しそうに手を合わせている。一人じゃ味気ないだろうから俺も付き合ってやるか。
冷めかけたコーヒーの入ったマグカップを持って食卓に移動した。
「今月は結婚式を挙げるカップルが多いみたいですね。二次会とか誘われるんですけどなかなか行けなくて。」
「ジューンブライドか。6月の花嫁は幸せになれるとか言うからな。」
「ああ、そんなジンクスもありましたね。ヒロさん、そういうの信じる方ですか?」
「全然。」
即答すると、野分は苦笑して話を続けた。
「だけど、どうせ式を挙げるなら良い日取りにしたいですよね。6月の友引とか、大安とか。」
「お前は6月がいいのか?」
「えっ…」
野分は手に持っていた茶碗を下ろして、キョトンとしている。
「ジューンブライドってヨーロッパ発祥の風習だろ?あっちは乾季だから良いかもしんねーけど、日本は梅雨だぞ。」
「わわわっ…それは盲点でした。そうですね…大雨とかジメジメとかだと嫌ですね。」
野分は困ったように笑いながら、ご飯をパクパクし始めた。