純情エゴイスト〜のわヒロ編7〜

□ヒロさんの『初めて』
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風呂からあがってリビングに行くと、野分はソファーに座っていた。

テレビの報道番組をぼんやりと見つめている。

いつもなら一緒に風呂に入ろうとしつこいくらいなのに、今日は何も言ってこなかった。元気がないみたいだけど、何かあったのだろうか?

生乾きの髪をタオルで拭きながら野分の隣に腰を下ろした。

「どうした?お前、今日は何か変だぞ。」

「すみません。ちょっと考え事してて…」

野分は一瞬何か言いたそうな顔をしたけれど、そのまま黙り込んでしまった。

「俺には話しにくいこと?」

「はい。恥ずかしいくらいくだらないことなので、気にしないでください。」

そんな風にシャットアウトされてしまうと、スゲー気になるんだが…

モヤモヤしていると野分は付け足すように呟いた。

「津森先輩がふざけ半分でした質問の答えが思い浮かばなかっただけなんです。」

確かに、津森絡みなら碌なことじゃなさそうだけど。

ふざけ半分ってことは俺が関連する質問の可能性が高い。一体何を聞かれたんだ?

「まだ答えが出ないなら協力するぞ。お前が元気ないと調子が狂うんだよ。くだらなくても怒らねーから。」

そう言うと、野分は小さく溜息をついた。

「やっぱり気になりますか?」

「なりますよ!」

「じゃあ、ちょっとだけ協力してもらおうかな。ヒロさん、俺の質問に正直に答えてください。」

「お、おお。」

ちょっと緊張してきた。エロいこととか聞かれたら嫌なんだけど…

「ヒロさんを抱いたの、俺が初めてじゃないですよね?」

「…うん。」

いきなりなんてこと聞きやがる!!

そっち方面では黒歴史ばかりで、野分に話せるようなことなんてないのに。

ヤバい…協力するなんて言うんじゃなかった。

「あー…ごめんなさい。デリカシーなさすぎですよね。ヒロさんを責めたいわけじゃないのでそんな暗い顔しないでください。」

野分はフォローするようにそう言うと、優しく髪を撫でてくれた。

「えっと、じゃあ、ヒロさんが初めて手料理を振舞った相手は誰ですか?」

「親。」

「へっ!?ヒロさん、親御さんに料理作ってあげたりしてたんですか!?」

心底驚いた様子で俺の顔をまじまじと見つめている。失礼なヤツだ。

「俺だってたまにはそれくらい…と言いたいところだが、ただの宿題だ。調理実習で作ったメニューを家でもう一度作って、親に感想聞いてこいってやつ。」

「ああ、そう言えば俺もありました。中学生くらいの時だったかな?」

「そうそう。」

確か、生姜焼きとマカロニサラダに味噌汁だったかな?

母さんは生姜が効きすぎてるとか、マカロニゆで過ぎとか、ムカつくくらいダメ出しをしてきたけど、結局残さず全部食べてくれたんだよな…

『ごちそうさまでした。』って嬉しそうに言ってくれた時は、また作ってやってもいいかなって気持ちになったっけ。

「ヒロさんのご両親が羨ましいです。俺もヒロさんの初めての手料理食べたかったな〜」

野分はそんなことを言いながら残念そうに微笑んでいる。

「えっと…じゃあ、初めて一緒にお風呂に入った人は?」

「親に決まってんだろ。」

「あーっ…そうですよね。ご家族以外ではどうですか?」

「誰かは知らねーけど、家族旅行で行った温泉じゃね?あとは、林間学校で学校の奴らと入ったし、秋彦がたまに泊まりに来てたから一緒に入ったこともあったかな…」

ガキの頃の話だし、まさかそんなことで嫉妬したりとかしねーよな?

ちょっと心配になって野分の表情を伺っていると、野分は小さく溜息をついた。

「やっぱり、そんなものですよね。」

なんとなく、津森から聞かれたことがわかったような気がする。

「もしかして、俺にとってお前が初めてだったこととか考えてる?」

「あっ、バレちゃいました?先輩から『お前、上條さんの初めていくつ貰ってんの?』って聞かれて、考えてみたら『あれあれ?』ってなってしまって。あはは…くだらないですよね。」

野分…無理に作った笑顔がちょっと寂しそうだ。
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