純情エゴイスト〜のわヒロ編7〜

□元気のもとは自粛中?
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夜の回診を終えて休憩室に向かっていると

「野分せんぱーい♪」

俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。辺りを見回すと、壁際にならんだソファーに座った風斗が手を振っている。

風斗は草間園で育った弟みたいなもので、ヒロさんの教え子でもある。ヒロさんに悪い虫がつかないように大学での監視役を頼んだりもしているのだけど…何かあったのだろうか?

「お仕事お疲れ様です。」

「お疲れ様。病院に来るなんて珍しいね。」

いつもメールでやりとりしているから、顔を合わせるのは久しぶりだ。

「これ、上條先生から頼まれて届けに来ました。」

風斗が持っているのは、着替えの入ったボストンバッグだ。

「ヒロさんから?」

数日前、時間があったら着替えを届けて欲しいとヒロさんにメールをしたのだけれど、仕事が忙しくて行けそうにないと断られてしまったんだ。

『ごめんな』と申し訳なさそうな謝罪の言葉が入っていたから『気にしないでください』と返しておいた。だけど、ヒロさんはずっと気にかけていてくれたのかもしれない。

「もしかして、ヒロさんからバイト代とか貰ってる?」

「そ…それは…言ったら先生に殴られますっ!」

貰ったんだ。

俺のためにお金まで払って遣いを寄越してくれるなんて…ヒロさん、ありがとうございます。

感謝する反面、やっぱりヒロさんに届けてもらいたかったとガッカリしている自分もいて…我儘な自分に苦笑してしまう。

「ありがとう。ヒロさんにもお礼を言っておいて。」

「はい。先輩、疲れてませんか?体調は?」

どうやら俺の様子をヒロさんに報告する仕事がまだ残っているようだ。

「疲れてはいるけど大丈夫。週末には帰れそうだって伝えて。」

「はいっ!」

元気に返事をして帰って行く風斗を笑顔で見送って…小さく溜息をついた。

「ヒロさんに会いたかったな…」




そんなことがあってから数週間…

「それじゃ、先輩、お仕事頑張ってください♪」

「うん…」

どうして毎回風斗を寄越すんですか〜!!

このところヒロさんはめっきり病院に姿を見せない。思い当ることと言ったら…

「津森先輩!」

ロッカールームに行くと、先に休憩に入っていた先輩が煙草を吹かしていた。

「お疲れ。どうした?怖い顔して。」

「ヒロさんにまた何か言ったんですか!?」

「んー?なんで?」

なんでって…

「ヒロさんが着替えを届けてくれないんです。」

「ああ、また教え子寄越してきたのか。ストーカーなんかやってないで会いにくればいいのに。なに意地張ってんだか。」

「はい?」

ストーカーって何のこと?キョトンとしていると先輩はクスクス笑いだした。

「上條さん、今日も来てたぞ。声かけたら真っ赤になって全速力で逃げられちまったけどな。」

「ヒロさんが来てたんですか?」

「ああ、病院の外からプレイルームの窓を見上げてた。爪先立ちして、お前が見えると嬉しそうな顔しちゃってさ。」

先輩『今日も』って言ったよね…?俺の知らない間にヒロさんは何度も俺を見に来てるってことですか!?

「てっきりお前と喧嘩でもしてるのかと思ってたんだけど、違うのか?」

「喧嘩なんかしてません。」

それどころか、家で会う時は以前よりもラブラブ…な気がする。

当番じゃないのに晩ご飯を作って待っていてくれた日もあったし、リビングで寛いでいる時も俺にピトッと肩を寄せてきたりして…

調子にのってお風呂に誘ったら殴られてしまったけど、お風呂から上がった後は俺のベッドに潜り込んでいて…可愛かったなぁ///

「なににやけた顔してんだよ?」

はっ!!

「すみません。可愛いヒロさんを思い出してつい…」

「ふーん…その様子だと上手くいってはいるんだな。」

「どうして着替えは届けてくれないんでしょう?この前、ヒロさんに聞いてみたんですけど『時間がなくて行けないだけだ』ってはぐらかされてしまって。」

こっそり俺を見に来てるってことは時間はあるってことだよね?

「お前に会いたい気持ちより俺に会いたくない気持ちが勝ったとか?…って、俺、そんなに嫌われてんの!?」

「いくらなんでもそれはないと思います。」

「だよな。」

うーん…他に思い当ることと言えば…

「あっ!もしかしてあれかな?」

最後に着替えを届けてくれた日、ヒロさんは宮本教授と再会したんだ。

教授はヒロさんが通っていた剣道の道場の先輩で、20年ぶりに再会したとかで嬉しそうにしてたっけ。

そして、尊敬する先輩から、俺のパシリにされていると勘違いされて…
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