純情エゴイスト〜のわヒロ編7〜
□ヒロさんのエイプリルフール
1ページ/4ページ
バイトに行く前に、ヒロさんのいる大学に立ち寄った。
まだ春期休暇中のはずなのだけれど、この前来た時よりも賑やかな気がする。
キョロキョロしながら歩いていると『テニスサークル』とカラフルな文字で書かれた看板らしき物を作っている学生さん達を見つけた。
そうか、もうすぐ新入生が入ってくるから勧誘の準備をしているのか。なんだか懐かしいな〜
バイトが忙しくてサークル活動には縁がなかったけど、俺が通っていた医大でもこの時期はこんな感じだったっけ。
入学式まで桜が持つと良いけど…所々に花弁の絨毯ができている道があったし、風の強い日が続いている。
黄緑色の若葉が見え隠れしている大きな桜の木があったので『頑張ってください♪』と声をかけた。植物は笑顔で話しかけてあげると元気になるって花屋の店長が言っていた。
花の綺麗な時期だし、バイトが終ったら何か買って帰ろうかな。
そんなことを考えながら歩いているうちに文学部の研究室のある棟に到着した。
中庭やホールのある建物は賑やかだったけど、この辺はまだ静かでひっそりとしている。建物に入って廊下を進んでいくと、前方に見覚えのある後ろ姿が…
「宇佐見さん?」
声をかけると、宇佐見さんが振り向いた。
「おはようございます!」
「おはよう。弘樹の所に行くのか?」
「はい。」
「出版社に行く前に資料を借りようと思ったんだが…」
『出直す』と言いかけて迷っているようだ。急ぎの資料で今を逃すと借りに来る時間がないのかもしれない。
「俺のことは気にしないでください。俺もヒロさんと約束したわけじゃないので。」
「そうか。悪いな。」
昔はヒロさんと過ごせる僅かな時間を邪魔されているような気がしてイライラしたりモヤモヤしたりしていた時期もあったけど、今はもう大丈夫。俺だって少しは成長してるんですよ♪
宇佐見さんと連れ立ってヒロさんの研究室に向かう。
扉をコンコンとノックすると
「はいはーい♪」
お道化た調子で宮城教授が顔を出した。
「ゲッ!!」
「おはようございます。」
「お…おはよう。草間君に…宇佐見先生も?」
「おはようございます。資料を借りに寄ったんですが、弘樹は…?」
「あー…もうすぐ戻ってくると思うから適当に座って待ってて。」
宮城教授は申し訳なさそうに頭を掻きながら部屋に入れてくれた。
宇佐見さんがソファーに座ったので俺はヒロさんのディスクチェアに腰を下ろした。まだほんのりと暖かい。僅かな時間の差で行き違いになってしまったようだ。
また教授に手伝わされてるのかな…と思ったら、教授は窓に肘をついて煙草を吸っている。仕事中というより息抜きタイムのようだ。
俺の視線に気づいて、教授は苦笑しながら話し始めた。
「今日エイプリルフールだろ?ちょっとからかっただけのつもりだったんだが、アイツ速攻で飛び出して行っちまってさー。」
「どんな嘘をついたんですか?」
「聞きたい?」
「はいっ!聞きたいです!」
なんだか楽しそうだ。宇佐見さんも読もうとしていた本から顔を上げてこっちを見ている。
宮城教授の話は、今から30分ほど前に遡る…