純情エゴイスト〜のわヒロ編6〜

□ヒロさんのお昼寝タイム?
1ページ/4ページ


Side 野分

最後の患者の対応を終えてほっと一息…同時に8人も運ばれて来た時にはどうなることかと思ったけど、みんな大事に至らなくて良かった。

ヒロさん、今行きますね♪ウキウキした気持ちで立ち上がって…時計を見上げて飛び上がった!

まだ11時くらいだと思っていたのにいつの間にか0時を過ぎている。大急ぎで待合室に向かったけど、ヒロさんの姿はどこにもなく…

キョロキョロと辺りを見回していると、処置室から津森先輩が出てきた。

「お疲れー!医者2人しかいねーのに全員受け入れとか無理し過ぎだろっ!もうこんな時間じゃん。」

「お疲れ様です。俺が無茶言った所為ですみません。あのっ、ヒロさん見ませんでしたか?」

「さあな。忙しくて気づかなかったな…」

目を反らしながらそっけなくそう言って立ち去ろうとする先輩に駆けよって腕を掴んだ。

「先輩!」

「あー、見たよ!急患が運ばれてくる前だったから8時頃かな?そこの椅子で本読んでた。」

8時…担当患者の容態が急変して処置を行っていた時間だ。

「あと、さっき対応した患者の家族に説明した後でちょっとな。うたた寝してたけど、終電が近かったから起こしたんだ。時計見てその後も暫く待ってたけど…間に合わなそうだったから帰した。」

ヒロさん…終電ギリギリまで待っていてくれたんだ。ここでずっと…

「せめて匂いだけでも…」

床に膝をついて椅子に突っ伏すように飛びついたところを先輩に蹴り飛ばされてしまった。

「嗅ぐな変態!!患者に見られたら危ないヤツだと思われるだろーが!」

「すみません。でも俺、ヒロさん不足で…」

ヒロさんの居る時間帯に帰宅できずにすれ違うこと一週間…今日はやっと会えると思っていたから残念過ぎて、こんな気持のままじゃ仮眠も取れそうにない。

「厳しいことを言うようだが、こんなことで一々落ち込んでたらこの先救急医なんてやっていけないぞ。恋愛と仕事の両立は難しいってお前だってわかってんだろ。」

「はい。」

俺よりずっと優秀な津森先輩でも、恋愛を諦めて仕事を取ったと言っていた。

ちゃんと仮眠を取って明日の業務に供えないといけないのに、私情でへこんでて眠れないなんて甘えだと思う…

「ヒロさんに電話してきます。謝らないと。」

着替えを届けてもらったのにお礼の一言もなく、ほったらかしにしてしまった。ごめんなさい。

「それでお前の気が紛れるなら謝っとけば?もっとも、上條さんは謝ってもらいたくなんかないと思うけど。」

「先輩…」

悔しいけど先輩の言う通りだ。ヒロさんは俺が謝る度に『悪いことしてるわけじゃないのに謝るな!』と叱ってくれる。医者として人命を優先しろって。

「俺はもう寝るわ!お前もウジウジしてねーでさっさと仮眠取れよ!」

そう言って先輩は仮眠室の方に行ってしまった。俺も眠らないと。でも、その前に一言だけヒロさんにお礼を言いたい。

ナースステーションに届いていた荷物を受け取ると、廊下の隅の目立たない所でヒロさんに電話をかけた。

せめて声だけでも聞ければぐっすり眠れそうな気がする。

そんな想いを打ち砕くように受話器の向こうから聞こえてきたのは、呼び出し音ではなく、ツーツー…という通話音。

ヒロさんが真夜中に俺以外の人間と電話をしてるとしたら、相手はあの人しかいない。

無意識のうちに電話をかけて俺との惚気話をしていることはあるみたいだけど、今夜は惚気るような出来事は何もない。

俺と会えなかったのが寂しくて宇佐見さんに慰めてもらってるとか?でも、弱音を吐くなんてヒロさんらしくない。

俺に対する愚痴を聞いてもらってる…とか?俺には言えないような本音を宇佐見さんには洩らしているのかもしれない。

弱音でも文句でも俺に言ってくれればいいのに。宇佐見さんや津森先輩にばかり…年下で半人前の俺じゃ頼りないのかなぁ…

もう一度かけ直す気にはなれなくて、メール画面を開いた。

『着替え、ありがとうございました。会えなくてごめんなさ』

謝罪の言葉を書きかけてすぐに消した。代わりに、今の想いを綴る。

『会いたい。ヒロさんが好きです。』

少しでも気持ちが届くように想いを込めて送信ボタンを押した。



仮眠室のベッドに横になって、スマホに保存してあるヒロさんの寝顔写真を開いた。

子供のような無防備な寝顔。可愛い…

ヒロさんの全てを独り占めしたいのに、ヒロさんの周りには俺よりデキる男が多すぎる。もっともっと頑張って早く一人前の医者になりたい。

ヒロさんに頼られて、安心して甘えさせてあげられるような男になりたい。そのために今俺がやるべきことは…

あーーーっ!無理です。全然眠れません…

会えなかった寂しさと、宇佐見さんへの嫉妬、不甲斐ない自分に対する嫌悪で仮眠なんて取れる状態じゃない。こんなんじゃダメだってわかってるのに。

ヒロさん…

写真をじーっと見つめていると、メールが届いた。ヒロさんからだ!

『寝てる?』

『起きてます!!』

即座に返信すると

『早く寝ろ!おやすみ。』

へっ…?

『俺も会いたい』とか『声が聞きたい』とか甘いメールを期待していたから拍子抜けしてしまう。えっと…

『おやすみなさい。』

送信して…ヒロさんのご命令ならもう眠るしかないですね。

眠れないなんて言ってられない。ヒロさん、おやすみなさい。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ