純情エゴイスト〜のわヒロ編6〜

□クイズの時間
1ページ/1ページ


仕事が珍しく定時で終わり、早くヒロさんに会いたくてうきうきしながら帰宅したら…

「ただいまです。」

玄関で挨拶しても返事がない。でも、リビングの明かりはついていてテレビの音が聞こえている。

ああ、今日はあの番組の放送日なんですね。

苦笑しながら靴を脱ぎ部屋に上がる。リビングの扉を開けてもう一度

「ただいまです。」

「おかえり!」

俺の方を見向きもせずに早口で挨拶して、ヒロさんはテレビの画面に集中している。

邪魔をしないようにそろりと自室に入って部屋着に着替えた。

ヒロさんが見ているのは年に数回放送されるクイズのスペシャル番組だ。テレビよりも読書派のヒロさんが唯一夢中になる番組。

出題される問題はどれも難問で、回答者は難関大学の学生や知識人ばかり。俺が聞いたことがないような言葉が飛び交っていて、クイズを楽しむというよりも回答者の知識の広さにただただ感心してしまう。

それでついつい回答者を褒めるような発言をしてしまうのだけれど、俺が褒める度にヒロさんは不機嫌になっていくんだ。

ましてや褒められたのが自分が解けなかった問題に正解した相手だったりした時には…考えるだけでも恐ろしい。

前回は大型の辞書がもの凄い速度で飛んできて俺の頭を直撃して、殴られるのには慣れっこな俺でもふらふらになっちゃったんだよね…

テレビ相手にムキになっちゃうところも、負けず嫌いなところも可愛いくて、ヒロさんを観察するのは楽しいけど、褒め言葉には要注意だ。

そんなことを考えながらリビングに戻ると、ヒロさんはさっきと同じ場所で微動だにせずにテレビを睨みつけていた。

床に正座して拳を握りしめている姿は正に真剣勝負の真っ最中といった感じだ。

「ヒロさん、そんなに近くで見てると目を悪くしますよ。」

医者として一応注意してみたけど、聞き流されてしまったようだ。

キッチンに行くと、コンロに乗せてあった鍋の蓋を取って中身を確認する。番組が始まったのは晩ご飯の後だったみたいだ。

コンロに火を着けて、冷蔵庫に入っていたおかずを電子レンジで温める。ご飯をよそって

「いただきます。」

手を合わせて挨拶すると、ヒロさんはちょっとだけこっちを見てくれた。テレビは丁度CMに入ったところだ。

「作り置きしてくれてありがとな。今日も美味かった。」

「どういたしまして♪」

「俺、この番組最後まで見るから、お前疲れてんなら先に風呂入って寝ろよ。」

「いえ、ヒロさんと一緒がいいので待ってます。」

それに、可愛いヒロさんを見ていたいし♪

ご飯を食べながらヒロさんの様子を観察する。テレビ番組よりもヒロさんを見ている方が面白い。

問題が出題されるとヒロさんは直ぐに言葉に出して回答する。すごく速いし、正解率も高い。流石は国立大学で教鞭をとるだけのことはある。

ヒロさんカッコイイ!と思うのも束の間、答えが合っているととっても嬉しそうな顔をしてはしゃぐものだから、子供みたいで可愛いな〜と頬が緩んでしまう。

そんなヒロさんにも苦手な分野は存在する。芸能やスポーツに関する問題は専門外らしく、その手の問題が出題されている間は休憩タイムになるようだ。

負けず嫌いなヒロさんでも、興味のない分野の問題に対してはわからなくても気にならないらしい。

でも…

「あーーーーっ!!間違えたー!!」

うっかりミスをしてしまったり、知っている問題の答えが出てこなかったりした時には落胆の声を上げて悔しがる。

そして…

「クソっ!また負けた!」

得意な問題で自分よりも早く回答者が答えを言ってしまったりすると、メラメラと闘志を燃やすんだ。

早押しクイズの時なんかはテーブルをバシバシ叩くものだから、飲み物は置かないように気をつけている。前にココアが零れてカップが割れ、大惨事になったことがあるのだ。

その時のことを思い出しながらテレビに目を向けると、毎回出場している常連の学生さんが映っていた。確かT大文学部で、ヒロさんの後輩にあたるはず。あ、また正解…

「この学生さんスゴイですよね。」

あ…しまった…

「野分!テメーは俺の味方じゃねーのかよ!こっちは学生に負けてプライドズタズタだって言うのに…野分のボケカス!!」

リモコンが飛んできて頭に激痛が走った。

「痛たたっ…ごめんなさい。」

思ったことを素直に口に出してしまうのは俺の長所だと思ってはいるんだけど、こういう時は命取りになりかねない。

やれやれと思いつつ床に転がったリモコンを拾って、空になった食器を重ねる。

「ごちそうさまでした。」



食器洗いが終わると、そーっとヒロさんの背後から近づいた。

後ろからふわっと抱き締めるとヒロさんはちょっとビックリしたように肩を震わせて…

「ほったらかしにしてごめん。あと15分くらいで終わるから。」

「気にしないでください。」

俺は後でゆっくりと構ってもらいますから♪

軽くキスをすると、ヒロさんもちょっと嬉しそうに見つめ返してくれた。

「最終問題始まりますよ。頑張ってください。」

「うん!」

邪魔にならないようにヒロさんから離れてソファーに腰を下ろした。

最後の問題はヒロさんお得意の難読漢字だ。目をキラキラさせながらスラスラと画面に映る漢字を読んでいくヒロさん。

俺はと言うと…読める字が殆ど無いのが情けない。もっと勉強しないととは思うのだけれど…今は可愛いヒロさんに癒されたい♪

全部答え終わったところで声をかける。

ここで上手く褒めてあげないと…

「スゴイです!全問正解でしたね。ヒロさんって漢字検定何級くらいなんですか?」

「んー、検定は受けたことねーけど、俺に読めない漢字は無い!」

「流石はヒロさんです♪」

「国文の助教授なんだから当然だ。それより、さっき間違えたとこ復習しねーと。」

こうなる…

褒めが足りなかった〜!!

ヒロさんはテレビを消してスッと立ち上がると自室に行ってしまった。復習タイムに突入…俺とのイチャイチャタイムはお預けですね。

当分待たされそうだけど、真面目で努力家なヒロさんも俺は大好きで…心から尊敬してます。

「ヒロさんはスゴイ人です。」

ヒロさんが戻って来るまで俺も漢字の勉強しようかな。

棚からヒロさん愛用の漢和辞典を引っ張り出してテーブルの上に広げる。ヒロさんに少しでも近づけるように俺も頑張ります!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ