純情エゴイスト〜のわヒロ編6〜

□ヒロさんと小さい野分
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『大至急病院まで来て下さい!』

野分からのメールに驚いて、急いで病院に来たら

「上條さん!!」

いきなり津森に捕まってしまった。津森には珍しく困惑の表情を浮かべている。

「あのっ、野分は?」

「それが〜…すみません!!野分のスマホ使ってメール送ったの俺なんです!」

「はあっ!?」

野分のことが心配で仕事そっちのけで飛んできたのに、悪戯だったらぶっ殺す!!

「説明するより見た方が速いので、ちょっとこっちに来て下さい。」

「えっ…おいっ!」

津森に手を引かれるままついて行くと、小さな会議室のような部屋に着いた。

部屋の中には2つ並んだ長テーブルを囲むようにパイプ椅子が並んでいて、一番端の椅子に10歳くらいのガキが座っている。

津森と俺の顔を交互に見ながら不安そうな顔をしている。

「ご覧の通りです。」

ご覧の通り…って言われても…

恐る恐るガキの傍に寄って声をかけた。

「野分?」

「はい。お兄さん、どうして僕の名前を知ってるんですか?」

マジかよ!!

以前、津森の友人が作ったとかいう子供に戻れる薬を野分と一緒に飲んだことがあるのだが、その時の小さくなった野分にそっくりで…まさかとは思ったのだが…

「津森さん!!野分に何したんですか!?」

「ははは…落ち着いて♪」

これが落ち着いてられるか!野分のヤツ、俺のこと『お兄さん』って…記憶まで子供に戻ったってことだよな?

「薬学部の友人が子供の頃の記憶を思い出す薬を作ったんです。心療内科でトラウマの原因を探るのに使えると思ったらしくて。で、その薬の失敗作を貰ったので試しに野分に飲ませてみたらこうなっちゃって。」

後輩に得体の知れないもん飲ませてんじゃねーよ!

「ちゃんと元に戻るんでしょうね?」

「大丈夫です。アイツ、マジで危険な薬は渡さないので。」

だったら、飲んだらどうなるかくらい説明しとけよ。ソイツ、津森と同じで絶対性格悪い!

「数時間で戻ると思うんですけどどれくらいかかるかわからないし、他の職員に見つかるとややこしくなるんで、連れて帰ってください♪」

「おいっ!コイツ俺の事覚えてねーんだぞ。どうしろって言うんだよ。」

無責任にも程がある。

まあまあ…と掌をヒラヒラさせている津森を睨みつけていると

「すみません。ここ病院ですよね?僕、病気だったんですか?」

野分が心配そうな顔で聞いてきた。子犬のような目で見つめられて不覚にも胸がキュンとなってしまう。

「いや、ちょっと変なもん飲んじまったたけだ。病気じゃねーから心配すんな。」

「僕、ここ最近の記憶がないです。草間園のお父さんとお母さんの本当の子供じゃないことがわかって家出したのは覚えてるんですけど…お兄さんは僕を迎えに来てくれたんですか?」

本当の子供じゃないって知ったばかりなのか…まだ心の傷が癒えてないだろうに。

何と答えていいのか迷って津森に目を向けた。

「失敗作と言っても、ちゃんとトラウマになりそうな記憶まで遡ってるんですね。」

津森はそう言うと、野分の前にしゃがんで視線を合わせた。

「心細いだろうけどちょっとの間だけ我慢な。このお兄さんと一緒にいれば大丈夫だから。」

「はい。よくわからないけど、僕もそんな気がします。お兄さんと一緒にいたいです。」

「あはは…ってことで、上條さんよろしくお願いします♪」

野分にじーっと見つめられて小さく溜息をついた。これ以上、津森と口論しても野分を不安にさせるだけだ。

「わーったよ!野分、帰るぞ。」

「草間園には帰りたくないです…」

「えっと、お前は覚えてないかもしれないけど、家出事件はもう解決してるから。お父さんもお母さんもお前のことスゲー心配してたんだぞ。」

「えっ…ほんとですか?僕はいらない子なんじゃ…」

「そんなことないって、お前が一番よくわかってるはずだろ?」

「…はい///」

野分はちょっと嬉しそうに頬を染めて頷いた。

「草間園に帰してやりたいところだが、お前は今俺と一緒に住んでんだ。」

それにもう夜だし、こんな時間に突然子供に戻った野分を連れて行ったりしたら草間園は大パニックになってしまう。

だけど、知らない男に連れられて知らない家に行くとか…不安だよな。行きたくないって言われたらどうしよう…

「あのっ!」

「なっ…なに?」

「もしかして、僕を引き取ってくれたんですか?僕の新しいお父さん?」

「お父…さん…」

俺が!?

愕然としている俺を見て、津森がプッと吹き出した。後ろを向いて笑いを堪えるようにピクピクと肩を震わせている。

「いや、ち…違う!お父さんじゃなくて…」

「ごめんなさい。覚えてなくて…パパって呼べばいいですか?」

「いやいや、親じゃねーから。」

「でも、一緒に住んでる家族なんですよね?」

おいおい…どう説明すりゃいいんだ。困っていると津森が説明しだした。

「そうだよ。このお兄さんは野分君のお嫁さんなんだよ。」

「おいっ!!ガキ相手に何て事を!野分が混乱すんだろっ!!…って…」

野分…目茶苦茶喜んでる!?

「お嫁さん?…こんな綺麗な人が…僕のお嫁さん…わ〜っ///」

ぽわ〜んと火照った顔をして幸せそうに呟いている野分を見て、津森は腹を抱えて笑っている。

最悪だ…この二人…
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