☆彡春のエゴイスト2

□アラームの5分前
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アラームが鳴るまであと5分・・・また鳴る前に目が覚めてしまった。

ベッドから起き上がってアラームを解除する。

時計が鳴る前に目が覚めるのは良いことのように思えるけれど、実は『過緊張』状態で疲れの原因になっているのだと医学を学ぶようになってから知った。

物心ついた頃から目覚ましをセットすると鳴る前に目覚めるのが当たり前になってしまっているのは、心が病んでいる所為だろうか?

まったく自覚は無いけれど、捨て子だという意識や、仕事や恋愛に関する不安が燻っているのかもしれない。

かといって、目覚ましをかけずに眠ると爆睡して寝坊してしまうのだから不思議だ。

ヒロさんの隣で寝ているときは・・・夜中に何度か目覚める上に、早起きしてしまう。ヒロさんの可愛い寝顔を見るのが好きだし、朝ご飯も作ってあげたい。隣にヒロさんがいるのに寝ているのが勿体無く思えてしまうんだ。

あはは・・・こんなんじゃ早死にしてヒロさんに叱られてしまいそうだ。ヒロさんの為にも健康的な睡眠を心がけないと。

少しずつだけど、アラームの時刻には近づいてきている。今日は5分前だったけど、次はどうだろう?1秒でも縮まるといいな。

そんなことを考えながら浴室に向かう。暫くお風呂に入っていなかったのがバレバレだったようで、出かけ際に

『ちゃんと風呂に入れよ!』

とヒロさんに言われてしまった。

今朝もすれ違いで数分しかヒロさんと一緒にいられなかったけれど、顔を見られただけでも嬉しかったな///

中学を出て直ぐに社会に出て、一人で何でもできるつもりでいたけど、ヒロさんと出会っていなかったら住む場所も服装も食事も睡眠も全部適当に済ませてしまっていたかもしれない。

ヒロさんと暮らすために借りた部屋、センスのない俺のためにヒロさんが選んでくれた服、お互いのことを思って作る料理・・・それに、ヒロさんと一緒に長生きできるように睡眠も意識するようになった。

医者を目指していられるのだって、ヒロさんのサポートがあってこそだ。

好きになった人がヒロさんで本当に良かった。

幸せ気分でシャワーを浴びる。バスタブに浸かりたい気もするけれど、今夜ヒロさんと一緒に入ることにしよう♪

部屋着に着替えてキッチンに行くと、冷蔵庫の中にヒロさんが作ってくれた朝ご飯が並んでいた。

レンジで温め直して

「いただきます!」

昼食を兼ねた朝食を食べる。

カレンダーには帰宅予定を書いているけれど、予定通りに行かない日も多い。それでも、ヒロさんが朝食当番の日にはちゃんと予定を確認して俺の分も用意してくれるからありがたい。

定番の目玉焼き定食だけど、俺のために作ってくれたのだと思うと・・・幸せだな〜///

向かいの席にヒロさんがいるつもりで美味しくいただいていると、チャイムが鳴った。

インターホンのモニターに映っているのは宅配業者さんだ。

「はい。」

『上條弘樹さんにお届け物です。』

「今出ます。」

ヒロさんの判子を手に玄関先で荷物を受け取った。

単行本サイズの茶封筒には端正な文字で住所とヒロさんの名前が綴られている。差出人は勿論宇佐見さんだ。

発売前の新刊・・・

宇佐見さんには美咲君という恋人がいるけど、出来上がった作品を一番先に読ませたい相手は未だにヒロさんなのだろう。

ヒロさんも楽しみにしているみたいだし、それを咎める権利は俺にはないけれど・・・

宇佐見さんとヒロさんは読書という共通の趣味で繋がっていて、そこに俺が入る隙間は無い。

だけどそれは、俺が津森先輩と医学で繋がっていて、ヒロさんが入って来れないのと同じことであって特別なことじゃない。

ヒロさんは昔は宇佐見さんに想いを寄せていたけれど、今は幼馴染として大切にしているだけで、一番好きなのは俺だ。

そんな風に頭の中で何度自分に言い聞かせてみても、心がもやもやするのを止める術はなく・・・こんな些細なことで未だに不安になってしまう自分が嫌だ。

荷物をローテーブルの上に置いて、小さく溜息をついた。

食卓に戻って残っていたご飯を食べる。さっきまで美味しかった料理が今はしょっぱく感じる。

折角ヒロさんが作ってくれたのに・・・ヒロさん、ごめんなさい。俺、宇佐見さんに嫉妬してます。

嫉妬するのは宇佐見さんの方が俺より上だって認めてしまっているからだ。

何が上なのか自分でもよくわからないし、勝ち負けなんてないと思っているけれど。

新しい作品を書き上げることでヒロさんを喜ばすことができる。一時でもヒロさんを自分が作り上げた世界に連れ去ることができる宇佐見さんが妬ましい。

ヒロさんを独り占めしたい。俺だけを見ていて欲しい。一番でいたい。

子供っぽくて、我儘で、余裕が無い・・・そんな自分が情けなくてたまらない。

「ヒロさん・・・」

苦しくなってヒロさんの名前を呟いたら、今度はスマホの着信音が響いた。

俺のスマホ?どこに置いたっけ?

慌てて部屋の片隅に投げ出したままになっていたボストンバッグを開けてスマホを取り出した。ヒロさんからだ!

「はい。野分です。」

お昼休みに入った頃かな?ヒロさんから電話をくれるなんて珍しい。

『お疲れ。もう起きてた・・・よな?』

「はい。起きてご飯食べてました。」

『風呂には入った?』

「入りました。」

もしかして、その確認ですか!?

『バイトに出かける前にちょっとだけ大学に寄れないか?』

良かった。本題はお風呂じゃなかった。

「大丈夫ですよ。忘れ物ですか?」

『ああ、スゲー重大な忘れもんだ。』

「えっ!?何を忘れたんですか?直ぐに届けます!!」

『いや、急ぎじゃねーから飯食ってからでいい。裏門で待ってるから着く頃になったらメールして。』

「わかりました。」

『じゃあ、後でな!』

切れた・・・って、忘れ物は!?

慌ててヒロさんに電話をかけたけれど・・・留守電に繋がってしまった。

俺は何をお届けすればいいんでしょう?

うっかりなヒロさんに笑いが洩れる。取りあえずメールを入れて、返事を待つことにしよう。

それにしても、少しヒロさんと話しただけで塞ぎこんでいたのを忘れてしまった。我ながらお手軽だと思うけれど・・・そんな自分も悪くない。
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